王妃のお茶をこぼせない反逆者

反乱軍が王宮を制圧した午後も、王妃ウィサベルは温室で茶を飲んでいた。

指揮官ゾラディクは血のついた剣を下げ、彼女の無関心を嘲った。

「兵が逃げ、王も地下道へ消えた。飾りの王妃だけが残ったか」

ウィサベルは椅子から立たず、カップを唇の前で止める。

「午後三時には、ここで使用人たちへお茶を出す決まりです」

彼女の背後には、逃げ遅れた侍女と庭師が身を寄せていた。

ゾラディクは小型弩を抜き、王妃の手からカップだけを撃ち落とそうとした。矢はまっすぐ飛び、直前で弧を描いて空の椅子へ刺さった。茶の表面には波紋一つない。

「宮廷奇術か」

彼は怒り、奪った王剣を振り上げた。二撃目は温室をまとめて薙ぐ《赤月斬》。ガラス屋根も床も吹き飛ばせば、背後の者を含めて逃げ場は消える。

赤い斬撃が温室を包み、砕けたガラスと煙が昼の光を隠した。

煙が晴れる。

ウィサベルはカップを唇の前で止めた同じ姿勢だった。背後の使用人も無傷で、卓上の角砂糖さえ崩れていない。温室は彼女たちの周囲だけ半球状に残っていた。

よく見ると無傷なのは王妃の背後だけではない。入口近くで伏せていた反乱兵にも、ガラス片一つ刺さっていなかった。ウィサベルが最初に彼らへ『ようこそ、客人方』と告げたためだ。敵であっても茶会へ迎えた者を危険へ当てない。王妃の無敵は、味方と敵を分けてすらいなかった。反乱兵たちは剣を下ろした。自分たちを撃退する力がありながら、一人も傷つけなかった王妃を、逃げた王より先に敵と呼ぶ理由を失ったのだ。温室に残った者は皆、その意味を知った。

ゾラディクが異常に気づいたのは、王剣に付いた鑑定石が相手の情報を表示し始めたときだ。

【攻撃:0】

【敏捷:1】

【回避:0】

「零だと……では、今のは何だ」

「客人を危険へ当てない。それだけが王妃の仕事です」

ウィサベルは背後の侍女へ、新しいカップを一つ頼んだ。

鑑定石は彼女が受けた損害を探し続け、最後の欄だけを白く明滅させる。

【防御値:測定不能】