玩具たちの夜勤

エブリンは王宮の人形係だった。

祝祭のたびに百体の人形を縫い、王子が腕を折れば夜中でも呼び出された。桃色の制服は指先の血で小さく染まり、ポケットには未読の注文札がいつも詰まっていた。

辞めた彼女が開いた玩具店〈明日は遊ぶ〉は、子どもが走れば棚が揺れ、木馬がぶつかれば壁がへこむ。それでも閉店後、店内の玩具たちはこっそり起き出した。

兵隊人形が釘を運び、ぜんまい鼠が床の傷へ木屑を詰め、布の熊が裂けた日除けを縫う。朝には店も玩具も元通りになっている。昼間は会計人形が客へ値段を告げ、売上を自動で精算した。

《本日の売上、入金。店主の休日四日分》

その表示へ、王宮の金文字が重なった。

『皇女殿下の誕生祭。人形二百体を至急。王宮へ復帰せよ』

「お断りします」

返事はすぐ来た。

『名誉ある仕事だ。かつての恩を忘れたか』

エブリンは指ぬきを外した。内側には、眠気で針を刺した傷が残っている。

「恩は覚えています。でも、痛みも覚えています」

『子どもたちを悲しませる気か』

「二百体を一人に縫わせる大人が、先に考えることです」

通信札を紙飛行機に折り、窓から飛ばした。ちょうど木馬が棚へぶつかり、壁に丸いへこみを作る。兵隊人形たちが一斉に敬礼し、木屑を運び始めた。

店先では、小さな客が貯めた銅貨を一枚ずつ会計人形へ渡していた。選んだのは、片翼が折れていた木の鳥だ。昨夜、ぜんまい鼠たちが直したもので、鳥は掌の上で軽く羽ばたいた。子どもは「新品より、この子がよかった」と言って駆けていく。王宮では同じ顔の人形を百体並べたが、この店では一つの傷と一人の好みが残っている。売上の数字は小さくても、エブリンには十分だった。

エブリンは笑って、店内の大きな凧を一つ手に取った。売り物ではなく、彼女自身が遊ぶために作ったものだ。

会計人形へ店番を任せ、丘へ向かう。背後で売上の鐘が鳴ったが、振り返らない。

午後の風に凧糸を預け、エブリンは初めて、誰かを喜ばせるためではなく自分が笑うために走った。