白いギプスの内側

県立病院の整形外科実習室で、麻薬保管庫の鍵が消えた。師長の外津は鍵を器械台へ置き、三人の職員に薬品台帳の不足を問いただしていた。救急招集の放送が流れ、全員が壁の端末で病棟番号を確認したわずかな間に、鍵はなくなった。実習室は感染対策で内側から施錠されている。

容疑者は看護師の島添、研修医の蓬莱、薬剤師の木賊。三人とも台帳の誤差に関わり、鍵を奪う動機がある。白衣、靴、器械箱を調べても見つからない。室内には固定法の練習に使う二本の模擬腕があり、どちらにも白いギプスが巻かれていた。

救急招集は別病棟の誤入力で、三分後には解除された。その間も三人は実習室から出ず、外津の指示で器械台を囲んでいた。蓬莱は薬剤師の鞄を、木賊は看護師のポケットを疑ったが、島添は模擬腕を壁際へ戻して「患者の物でないなら後で調べればよい」と片づけようとした。

手掛かりは三つだけだった。第一に、朝作った左右一対の模擬腕のうち、右腕だけ二十四グラム重くなっていた。第二に、右のギプスは表面がまだ温かく、底側にだけ新しい石膏の継ぎ目があった。第三に、救急放送の直前、「巻き方が緩い」と右腕を器械台の脇へ移し、石膏帯を重ねたのは島添だった。

島添は「乾燥の差で重さは変わります」と答えた。だが乾けば水分を失って軽くなる。朝より重く、しかも局所だけ温かいなら、何かを入れて巻き直したと考えるほかない。

私は右腕の底の継ぎ目を切った。石膏の白い層から鍵が現れた。「二十四グラムは鍵の重さ、温かい継ぎ目は直前の巻き直し、模擬腕を鍵のそばへ運んだ事実が島添さんを示す。放送中に鍵を石膏帯で一周包み、表面を水で均したのでしょう。身体にも器械箱にもないのは当然です。鍵は治療具に隠されたのではなく、隠し場所そのものを白い包帯で作られたのです」島添さんは、医療現場では白い石膏が疑われにくいことまで計算していました。けれど乾燥という時間の向きは逆にできません。重く、温かく、直前に巻かれた右腕だけを選べば、切る場所も犯人も一つに定まります。