白紙時刻表
郷土資料館の学芸員、鳴滝律は、寄贈された鉄道写真の整理中に「暦外駅」を見つけた。写真の駅名標は鮮明なのに、どの路線史にも記録がない。
写真の裏には鉛筆で注意書きがあった。
《暦外駅の白紙時刻表に、時刻を書き込んではいけない。書いた時刻は列車ではなく、書いた者を到着させる》
律は資料として面白いと思ったが、信じてはいなかった。
一週間後、帰宅途中の列車が見知らぬホームに停車した。駅名は暦外。壁には大きな時刻表があり、行先も発車時刻もすべて空欄だった。
律は写真と寸法を記録した。ホームの時計には針がなく、ベンチに残された乗車券は、どれも持ち主の死亡時刻らしい数字だけを印刷していた。資料館へ持ち帰れば展示になる、と考えたことが油断だった。紙質を確かめるため、胸ポケットの鉛筆で端へ小さく「23:48」と書いた。
その瞬間、止まっていた駅時計が二十三時四十七分を指した。
律は慌てて数字を消したが、鉛筆跡は紙の内側へ沈み、消しゴムが届かない。遠くで列車の風が鳴り始めた。到着前にホームを走り、開いていた非常扉を抜けると、いつもの駅のトイレに出た。
帰宅後、スマホの予定表に見覚えのない予定が入っていた。
《23:48 到着
主催者:暦外駅務室
参加者:鳴滝律》
削除しても戻り、時刻を変えると「主催者の許可が必要です」と出る。翌日も、その翌日も、二十三時四十八分になるたび通知が鳴った。何も起きないので、律は徐々に気にしなくなった。
七日目の夜、通知が一分早く届いた。
《会場が変更されました》
場所欄は「自宅」から「一番線」へ変わっている。参加状況は、触れていないのに「出席」に切り替わった。
二十三時四十八分。
部屋の時計がすべて止まり、カーテンが列車の通過風のように膨らんだ。玄関の下から黄色い点字ブロックが一本、机の足元まで伸びてくる。
スマホが鳴った。
《鳴滝律さんが到着しました》
律はまだ椅子に座っていた。
続いて、予定表に次の予定が追加された。
《23:49 回収》