白線の内側に置く靴

公式戦を終えた選手は、競技場の出口にある後悔販売機へ、その試合の後悔を一つ入れられる。対象は最後に触れたボールから笛が鳴るまでの出来事に限る。結果を書いてはいけない。土のついた靴を白線の内側へ置き、靴紐に行為を書いた札を結ぶと、機械が靴を返すかどうか決める。

真壁は引退試合でPKを外した。会社のサッカー部で十年、全国大会には届かなかった。最後の一本はクロスバーを越え、駐車場の金網に当たった。観客は彼の名前を呼び、後輩たちは「胸を張ってください」と言った。

ロッカールームへ戻る通路で、真壁は右のスパイクを脱いだ。札に〈PKを外したこと〉と書く。機械は赤字で〈結果は投入できません〉と返した。

〈強く蹴りすぎたこと〉。今度は〈測定不能〉

監督が先に通り、泥だらけの靴を機械へ置いた。何を書いたかは見せない決まりだ。商品口から缶ビールが出ると、監督は「ノンアルだ」と笑った。皆、そうして自分の最後の試合を片づけていく。

真壁はキックの直前を思い出した。助走に入る前、ベンチを見た。そこには七年前に退部した兄の席が、なぜか今も一つ空けてある。兄はけがで辞め、真壁に「俺の分まで」と言った。以来、真壁は大事な場面になると必ず、その空席を確認した。

最後の札に書く。

〈蹴る直前、ゴールではなく空席を見たこと〉

靴を白線の内側に置く。機械は長く靴底の土を吸い、やがて左のスパイクだけを返した。右は引退者の後悔として回収されたらしい。

商品口には、細い瓶のスポーツ飲料と、白い靴紐が一本入っていた。真壁は片足だけスパイクのまま競技場を出た。駐車場の金網には外れたボールがまだ挟まっている。白い靴紐の先には、指ほどの小さなコーナーフラッグが結ばれ、風もないのに兄の空席の方向へ揺れていた。

真壁は小さな旗を部室の空いた棚へ立てた。翌週、後輩が練習へ来ると、棚から白線が一本伸びてグラウンドの隅まで続いていた。線の終わりには回収された右のスパイクの靴底だけがあり、泥の中へ兄の背番号を左右逆に刻んでいた。