百円玉の音が止んでも
ゲームセンター「ピクセル港」は、今月で電気代を三度目に滞納した。昼間でも半分の筐体は消灯し、客のいないフロアにデモ音だけが飛び交っている。
藤代慎弥は、故障札のついたクレーンゲームの前でしゃがんだ。景品口へ百円玉が落ちず、内部で詰まっている。星川が背面板を外し、藤代が懐中電灯を差し込んだ。
「配線じゃない。レールだ」
「また飲み込んだ?」
二人で筐体を少し傾けると、百円玉が何枚も奥で重なっていた。売上に入っていない硬貨だ。全部出せば、今日の電気代くらいにはなるかもしれない。
藤代は先週、無断で三日休んだ。父の借金取りがアパートまで来て、携帯も止められていた。事情を話す気はなかった。星川は怒鳴らず、勤務表から彼の名前を鉛筆で消した。それがかえって、戻る場所まで消されたようで腹が立った。
ピンセットでは届かず、二人は細い定規へ両面テープを巻いた。星川が筐体を揺らし、藤代が一枚ずつ貼り取る。硬貨が皿へ落ちるたび、乾いた音がした。十五枚、二十枚、三十一枚。
「これ、店長に黙って分けたら?」
藤代が冗談を言うと、星川は百円玉を一枚、彼の額へ当てた。
「休んだ分の給料にもならない」
「怒ってるなら怒ってくださいよ」
「壊れた機械の前で、人まで壊す暇ない」
最後の一枚が落ち、レールを磨いて戻すと、投入口の赤いランプが点いた。藤代が百円を入れる。アームは頼りなく動き、星形のぬいぐるみを撫でただけで戻った。
「直った」
「取れてない」
「機械は直った」
回収した硬貨は三千八百円。滞納額には届かない。明日、電力会社から停止予告が来るかもしれない。
閉店後、星川は勤務表を書き直した。消した跡の上に、藤代の名前を四日分入れる。説明も謝罪もなかった。藤代はロッカーから私物を持ち帰るつもりだったが、工具箱だけ置き、代わりに筐体の鍵を一本受け取った。
外へ出ると、店の看板は半分しか光っていなかった。ポケットの鍵が百円玉とぶつかり、さっきと同じ音を立てた。藤代はそれを使う朝が来ることを、もう予定から消さなかった。