百本を抜いて千斤を得る

王立農園の赤根菜は、毎年指ほどの太さで収穫された。

 種は高級、肥料も最高級。それでも一本が軽すぎて、宮廷料理長は今年の買付を打ち切ると言う。農園長は土の精霊が弱ったと主張し、さらに種を密に蒔かせて本数だけ増やしていた。

 蔵前灯里は、芽がそろった畝で小さな株を抜き始めた。

「王家の苗を捨てるな!」

 農園長ザハークが腕をつかむ。灯里は、掌一枚の間隔に一本だけ残し、抜いた若芽は食用の籠へ入れた。

 試験畝は二つ。それぞれ十歩、発芽数は二百本。片方は従来どおり全部残し、もう片方は五十本まで間引いた。水も肥料も同量にする。

「四分の三を殺して、収穫が増えるはずがない」

 ザハークは毎日、灯里の畝へ『失敗区』の札を立てた。

 三十日後、料理長立会いで両方を掘った。

 従来畝から出た二百本は、互いに押し合い、細い根が絡まっていた。食べられる大きさは二十三本。全量を秤へ載せて七百二十斤。

 灯里の畝は五十本すべてが拳より大きく、丸い肌に傷がない。全量は千百四十斤。株数を四分の一にしたのに、食べられる重さは一・五倍を超えた。

 料理長が一本ずつ切る。密植の根菜は筋が多く、中心まで赤くない。間引いた根菜は刃が抵抗なく入り、切り口から甘い香りと水分が出た。

 形の差も明らかだった。従来畝では二股や裂けが八十一本、灯里の畝では四本。料理人が皮をむく時間は、十本で七分から三分へ縮まった。太さだけでなく、厨房で捨てる部分まで減っている。

「肥料を盗んだな」

 ザハークは帳簿を広げた。だが両畝の肥料札は同じ十袋。違うのは一本が使える光と土の広さだけだった。

 灯里は抜いた若芽の籠も差し出した。塩で和えればすでに食堂で四十皿売れ、捨てた苗は一本もない。

 料理長は買付中止の札を裏返し、そこへ数量を書き直した。

「来季は赤根菜一万斤を予約する。ただし栽培指揮は灯里が取ること」

 王立農園長の鍵がザハークの腰から外れ、灯里の掌へ落ちた。