百本目の聖水瓶

聖泉祭の晩餐で、クレマン王子は透明な瓶を卓上へ叩きつけた。

「聖水税の一部をフロレンティナが横領した。徴収百本分のうち、国庫へ納められたのは九十九本。管理者である彼女が一本分を抜いた。婚約を破棄する」

一本だけ空いた席のように、百番目の瓶は見当たらない。数字が単純なぶん、告発は強かった。

フロレンティナは徴税を嫌われる役目だと知りながら、病者への無料配布分を守るため一瓶ずつ数えてきた。厳しすぎると罵られたその姿が、今は「自分の取り分に細かい女」という噂へすり替えられている。

フロレンティナは王子を見た。怒りで声を震わせれば、彼は罪ではなく嫉妬の話へすり替えるだろう。

「百番目の瓶を受け取った者が、私だと断言なさいますか」

「管理簿上はそうなる」

「では、管理簿ではなく瓶に尋ねましょう」

聖法院長ユリアンが、クレマンの前に置かれた水差しを手に取った。装飾と思われていた透明な栓には、小さく「百」の数字が刻まれている。

聖水瓶の百本目だけは、徴税監督者へ渡され、栓に最初の開封者の名を記す。偽造防止のための一度きりの証明だった。

ユリアンが栓を逆さにすると、青い文字が卓上へ落ちた。

――開封者、クレマン・ラシュレー。

――用途、私邸浴場。

聖水を浴場へ流した本人が、その代金をフロレンティナの横領に仕立てたのだ。

クレマンは水差しを奪おうとしたが、文字は消えなかった。

「一本だけだ。国を揺らす額ではない。婚約破棄も取り消す。お前も大事にしたくはないだろう」

「額の大小で、盗みが祈りに変わることはございません」

フロレンティナは首元の婚約章を外した。

「それに、私を大事にしなかった方が、事件だけ小事にできるとは思わないでください」

彼女は栓の隣へ婚約章を置き、クレマンに背を向けた。

ユリアンは聖堂へ続く廊下で手を差し出していた。聖法院の財務改革に加わるかどうかを、彼女に選ばせるための手だった。

フロレンティナは百本目の青い光を踏み越え、その手を取った。