盗まれた夢を映す硝子玉

夢硝子店〈夜の証人〉は、眠った者の記憶が濃くなる丑三つ時にだけ開く。

店主ザフィが紺の幕を上げると、魔術学院の研究生ラヴェリアが転がり込んできた。片手には退学勧告、もう片方には破られた術式図がある。

「私の魔法を、教授に盗られました」

彼女は夢の中で術式を組み立てる特技を持つ。三年かけて完成させた防壁術を教授へ見せた翌日、教授名義で発表された。抗議すると、逆に模倣したと訴えられた。明朝の審問で証拠を出せなければ、学院を追われる。

ザフィは紫の布をほどき、拳ほどの硝子玉を一つ見せた。

〈夢底玉〉。今夜見た夢を映すのではありません。長く同じ夢を育てた痕跡を、古い順に映します」

「今から眠って、間に合うでしょうか」

「三年分なら、まばたき一つで十分です」

ラヴェリアが玉を両手で包む。瞳を閉じた瞬間、店の天井へ青い線が走った。

最初は一本。次の季節には三本。失敗して弾け、形を変え、また組み直される。映像の隅には学院の入学年を示す星暦が刻まれ、教授が発表する二年以上前から、同じ防壁の核が存在していた。

最後に、今の完成形が天井いっぱいへ広がる。防壁は店を包み、外の雨粒を一滴も窓へ触れさせなかった。術式の中央には、ラヴェリアしか使わない逆向きの署名紋が光っている。

彼女は退学勧告を握り潰さなかった。丁寧に折り、証拠と一緒に鞄へしまう。

「これで、説明を求める側に立てます」

代金は金貨四枚。研究生の財布には三枚しかない。ザフィが一枚値引こうとすると、ラヴェリアは首から学院章を外した。

「これは質草です。審問が終わったら、金貨一枚を持って取り戻しに来ます。退学するにしても、これは私が三年通った証ですから」

翌夜、彼女は学院章より先に金貨を台へ置いた。教授の発表は取り消され、術式は彼女の名で登録されたという。さらに同じ硝子玉を一つ予約した。

「次は証拠のためじゃありません。自分の新しい夢を、最初から残します」

ラヴェリアが胸を張って去り、ザフィが学院章を磨いて箱へ戻したとき。

雨の止んだ戸口で、ベルが短く二度鳴った。