眠らないオルゴール

母の遺品に、小さなオルゴールがあった。

蓋には、姉妹が幼い頃に貼った星のシールが残っている。

二人はどちらが持つか決められず、四十九日まで実家へ置くことにした。

姉妹は母の介護をめぐって喧嘩したままだった。

姉は近くに住み、毎日世話をした。

妹は遠方から費用を送り、月に一度帰った。

どちらも、自分だけが大変だったと思っている。

最後の夜、二人で実家に泊まった。

布団を並べても、会話はない。

灯りを消すと、閉じたままのオルゴールが鳴り始めた。

妹が起きて蓋を開け、止めた。

布団へ戻り、姉と目を合わせずにいると、また鳴った。

姉が箱へしまっても、押し入れの中から鳴り続ける。

オルゴールは、二人が同じ部屋で黙っている間だけ鳴った。

「うるさい」

妹が言うと、曲は止まった。

「あなたが何か言えばいいでしょう」

姉が返した瞬間も、止まった。

だが二人がまた黙ると、最初から鳴り直す。

一曲は三分二十秒。

何度も聞いた子守歌だった。

母は喧嘩した姉妹を寝かせるとき、歌詞を間違えながら歌った。

妹は一番の途中で笑い、姉は笑う妹を叱った。

夜中の二時、姉が耐えきれず言った。

「お母さん、最後にあなたを呼んだ」

曲が止まった。

妹は返事をしなかった。

また曲が始まる。

一番が終わる前に、妹が言った。

「帰れなかった。飛行機が欠航したんじゃない。怖くて乗れなかった」

曲は止まった。

姉は、母の手を握っていたことを話した。

妹は、電話口で母の息を聞くのが怖くて切ったことを話した。

姉は費用を送られるたび、値段を付けられた気がしたと言った。

妹は帰るたび、何もできない客のように扱われたと答えた。

話すたび曲は止まり、黙るたび始まった。

朝までに、二人は同じ子守歌を二十回以上聞いた。

謝ったのは、空が明るくなってからだった。

先にどちらが言ったか、二人とも覚えていない。

四十九日、オルゴールは妹が持ち帰った。

姉は「また黙ったら鳴るよ」と言った。

「電話なら同じ部屋じゃないから大丈夫」

妹は笑った。

その後、姉妹は月に一度、オルゴールを互いの家へ送った。

箱の中には、言えなかったことを一枚ずつ書いた紙を入れた。

曲はもう勝手に鳴らなかった。

何年か後、姉妹の娘たちが喧嘩した夜、閉じたオルゴールが久しぶりに鳴った。

姉妹は顔を見合わせ、子どもたちの部屋へ置いた。

今度は曲が終わる前に、二つの声が聞こえ始めた。