睡眠面接
城戸晴臣は眠る前、枕元の《夢帯》が青く光るのを確かめる。
採用企業へ送られるのは、昼間に用意した回答ではなく、睡眠中の夢だけ。無意識は嘘をつかないため、夢の中で仕事より先に何を選んだかが最終面接になる。それが研究職の採用規則だった。
晴臣と佐伯久遠は、同じ再生医療研究所を受けていた。大学院で隣の机を使い、実験に失敗した夜は二人で床に座ってカップ麺を食べた。論文数も技術も久遠の方が上だった。
二週間、二人は寝る前に研究所の写真を見た。晴臣は培養槽の名前を唱え、久遠は枕の下に論文を入れた。夢は思い通りにならず、二人とも夜中に何度も目を覚ました。それでも何もしないで眠る勇気はなかった。
「今夜、研究所の夢を見る練習しよう」
久遠は笑って夢帯を額に巻いた。
翌朝、二人の端末へ《夢面接報告》が届く。
久遠の夢は、研究棟の火災だった。培養槽の警報が鳴る中、彼女はデータ端末ではなく、廊下に倒れた父親を背負って出口へ向かっている。
〈第一優先対象 家族〉
〈職務忠誠基準を満たしません〉
〈不採用〉
「父、十年前に死んでるのに」
久遠は画面を撫でた。夢の中でくらい助けたかった、と小さく言う。
晴臣の報告は、真っ白だった。前夜、三日続きの実験で疲れ切り、夢を一つも覚えていない。
〈私的対象の出現なし〉
〈職務外欲求 検出限界未満〉
〈採用〉
「ほら、どっちかは入れた」
久遠は祝うように言ったが、夢帯を外す手が震えていた。
晴臣は詳細を開いた。無夢ではなかった。音声だけが一つ記録されている。午前三時十四分、眠った彼は、はっきりこう呟いていた。
『久遠が落ちれば、席が空く』
覚えがない。思ったことすらない、と否定したかった。しかしAIは、その一言を〈健全な競争意識〉として最高評価していた。
研究所から受諾期限の通知が来る。
久遠は自分の夢帯を箱へ戻した。
「夢まで採用されないなら、もう何を隠せばいいんだろうね」
晴臣は〈受諾〉を押さず、自分の夢帯を彼女の箱に重ねた。二本の青いランプを消し、夜が来る前に研究所の通知を削除した。