砂粒二つの籠城戦
「砂粒を二つくっつけるだけ? 煉瓦一個すら作れないではないか」
城塞魔術院の試験で、クシアは無能とされた。
【魔法:《砂結び》――乾いた砂粒二つを、一分間だけ離れなくする】
三つ目は加えられず、石にも変わらない。クシアは城壁時計の掃除係へ回された。
彼女は砂の湿りを取り、一粒も残さず喉を通るよう磨いた。だからこそ、喉が一粒幅しかないことを知っていた。
敵軍が城を包囲した夜、守護結界の残り時間は巨大な砂時計へ示されていた。
上の砂が落ち切るまで結界は続く。援軍の到着は夜明け。だが砂はあと一分で尽き、敵の破城槌は門前まで来ていた。城主デレグは全兵へ最後の突撃を命じる。
「砂を足せば術式が偽造と判断して即座に消える。時計を倒しても同じだ」
技師たちは手を出せなかった。砂時計は結界の外に半分突き出し、敵の矢が降り注いでいる。喉は砂粒一つがやっと通るほど細い。だから正確に時を測れるのだ。
クシアは掃除のたび、最後の一粒まで流れる様子を見ていた。
「砂を増やさず、時計も止めず、一分だけ流れを遅らせます」
彼女は城壁の外側へ身を乗り出し、硝子越しに喉を通ろうとする二粒を見た。
《砂結び》。
二粒が横並びに固着した。
一粒幅の喉へ、二粒のままでは入れない。その上へ後続の砂が積もり、小さな山を作る。砂時計は壊れていない。砂も減っていない。ただ一分間、流れだけが止まった。
結界の光が門を覆い続ける。破城槌は青い壁へ弾かれ、敵兵を巻き込んで倒れた。
一分後、二粒は離れた。砂は再び流れ、最後の一粒が落ちる。
その瞬間、東の丘から援軍の角笛が鳴った。
騎兵隊が敵の背後へ突入し、門からもデレグの兵が打って出る。夜明けを待つはずだった敵軍は、結界が消えた瞬間に自分たちが挟まれたと知った。
試験官が「一分しか稼げない魔法だ」と言う。
デレグは砂時計から例の二粒を拾い、城主章の窪みへはめ込んだ。
「籠城戦で最も高価なものは、最後の一分だ」
城主は章をクシアへ渡す。
「今日から、この城の時間を無能と呼ぶ者は、まずおまえの許しを得ろ」