空白のロット二一七
島崎芹奈は製薬会社の包装ラインで、錠剤のPTPシートを検査する新人だった。後発薬五十万錠の出荷判定会議に、包装記録を説明するため出席した。
気密試験の一覧にはロット214、215、216、218、219が並び、すべて合格。品質保証部長の真壁は、病院への出荷承認を求めた。
芹奈は二一七がないことを尋ねた。
「試作番号で、製品ロットではない」と真壁は答えた。
しかし芹奈は二一七を検査していた。水槽へ沈めると、十枚中四枚から気泡が出た。湿気を吸えば薬効が落ちる重大不良だった。
彼女は検査機のプリンターカウンターを示した。二一六の報告は3421枚目、二一八は3423枚目。間の3422枚目が削除されている。保守サーバーにはその画像が残り、「FAIL 4/10」と印字されていた。
真壁は、調整中の機械で測った無効データだと言った。
芹奈は校正証明書を開いた。機械の校正は二一七の試験二時間前に完了し、担当者の署名もある。無効になったのは機械ではなく、結果だけだった。
営業役員は欠品による違約金を持ち出した。真壁は芹奈の配属を変えると脅した。包装ラインの仲間も、出荷が止まれば夜勤がなくなる。
芹奈はロット二一七の製造指図書を机に置いた。五十万錠のうち十一万錠が二一七で、すでに合格品へ混ぜられている。指図書の承認印は試験結果が出る三十分前に押されていた。
「空白にしたページは、空のロットではありません」
芹奈は二一七の包装材番号を追った。気泡が出た十一万錠のシートは、合格ロット二一八の外箱へ詰め替えられている。箱の印刷時刻は二一七の不合格判定から七分後。偶然の混入ではなく、不合格を見た直後に行われた移し替えだった。
二一七の製造記録には、箱替えを指示した真壁の手書き署名も残っていた。
工場長が出荷判定書を閉じ、出荷ゲートへ停止指示を送った。決裁欄は二一七番だけでなく、最後の署名まで空白になった。