空鍋を満たす一振り

吹雪で街道が閉ざされ、宿場町の共同食堂には百三十人が取り残された。

倉庫にあるのは、大麦が一袋と萎びた根菜だけ。炊き出し係は「子どもから配れば、大人の分はない」と言った。誰も異を唱えなかったが、皿を抱えた子どもたちは、自分の親の顔を見て列から離れ始めた。

食堂手伝いのメイベルは、成人祝いにもらった確定SSR抽選箱を卓上へ置いた。

「剣が出たら、薪割りに使うわ」

冗談を言って蓋を開く。必要なのは食材を生む畑ではない。今夜、この鍋にあるものを、全員へ同じ温かさで届かせる道具。

箱から出たのは、柄の長い木の匙だった。

《分かちの匙》

鍋を一周混ぜると、中身を食べる人数に必要な量と栄養へ整える。ただし、最初に入れた物以上の贅沢にはならない。

「十分よ」

メイベルは大鍋へ大麦と根菜をすべて入れた。塩は一つまみ。宿屋の主人が隠していた干し肉を出し、薬師が香草を差し入れ、猟師は自分の携帯食を刻んだ。

「入れた人だけ多くもらえるのか」

「いいえ。全員同じ一杯」

その答えを聞くと、パン屋は最後の酵母パンをちぎって鍋へ落とした。

メイベルが匙で一周だけ混ぜる。

鍋底から、ぽこりと気泡が上がった。薄かったスープは量を増し、麦は柔らかく開き、根菜の甘い匂いが食堂を満たす。匙は誰か一人の好みではなく、乳児にも老人にも飲み込める濃さへ味を整えた。煮汁は鍋の縁ぎりぎりで止まり、何杯よそっても最後の一人まで同じ具の数になった。

子どもも大人も、一つの列へ並び直した。

最後の皿を受け取ったのは炊き出し係だった。彼が一口すすった瞬間、張りつめていた顔がくしゃりと崩れる。

「温かいな」

翌朝、吹雪はまだ続いていた。だが住民たちは、誰の倉に何が残っているかを紙へ書き、今後の食事を等分する表を壁へ貼った。匙がなくても続けられるように。

空になった鍋の底で、木の匙が金色へ透ける。

《SSR〈分かちの匙〉――百三十人分を一粒の余剰なく配膳。完全公平使用を初認定》