竜炎より先に割れた瓶
火竜が一度息を吸っただけで、討伐隊は勝ったつもりになった。
「耐炎盾を構えろ!」
竜殺しランガの号令に、全員が銀色の盾を並べる。炎は左右へ割れ、誰一人焼けなかった。
歓声は、その直後に悲鳴へ変わった。
背後に積んだ回復薬の瓶が、熱で次々と破裂したのだ。冷却薬は沸騰し、魔力油へ火が移る。予備の弓弦は縮み、帰還用の羽衣は焦げて穴だらけになった。
「荷を盾の後ろへ置いたのに、なぜだ!」
誰も答えられない。
昨日追放された荷物持ちゼフなら、薬瓶を濡れた耐火布で一本ずつ巻き、空気を含む石綿袋へ収めた。熱を逃がすため、袋同士の間には拳一つ分の隙間を作った。討伐隊はその空間を「積み方が下手だからできた隙間」だと思い、今日は箱を隙間なく重ねた。
盾は竜炎を防いだ。だが防いだ熱は背後へ回り、密閉された荷箱を巨大な竈にした。ランガが報酬を惜しんで外した耐火布の費用は銀貨二十枚。今、煙になった薬だけで金貨百枚を超えていた。
「二度目が来るぞ」
治癒薬も帰還具もない。ランガは初めて、火竜ではなく自分たちの荷を見て後退を命じた。
そのころゼフは、鍛冶町の輸送炉で同じ炎を浴びていた。
運搬路は鍛冶炉三基の真横を通る。普通の苗なら葉先まで灰になる距離だった。
鍛冶師ウルナが真っ赤な鉄箱を開ける。中には氷花の苗が一輪、露をつけたまま残っていた。
「炉の横を通したのに枯れていない」
「熱を止めるより、逃げ道を作ったほうが軽く運べます」
ゼフは焦げ目一つない布を広げ、空気層の厚さを説明した。ウルナは職人たちを呼び、見本として触らせる。
「今日から耐熱輸送師だ。火を恐れずに運ぶのではない。荷が火を受けた後まで考える者に任せる」
夕暮れ、討伐隊の伝令蜥蜴が工房へ転がり込んだ。鱗は煤け、口からランガの声が漏れる。
『ゼフ、耐火布を持って戻れ。火竜はまだ巣にいる。今度はお前にも討伐報酬を出す』
ゼフは氷花の箱へ新しい封をし、伝令蜥蜴を出口へ向けた。
「火口で荷を投げ返された時点で、討伐隊との輸送契約は終了しています」