終末ダンジョンの帰還札
第九層の撤退指示を、ソウジは三十秒遅らせた。
その三十秒で崩落が始まり、前衛の盾は砕け、回収予定だった魔核は奈落へ落ちた。退路の橋も半分崩れ、ソウジは最後まで後ろを向けなかった。全員生還したのは偶然ではない。仲間が強かったからだ。案内役の自分は、ただ判断を誤った。
地上のギルドへ戻ると、配信映像には非難が溢れていた。
『荷物持ちが指揮するからだ』
『あいつを外せ』
『三人だけなら勝てた』
ソウジは装備庫で帰還札を外した。金属片には、これまで四十七回無事に戻った傷が刻まれている。四十八回目だけが、それまでの全部を消したように思えた。探索者が無事戻った証として掲示板へ掛ける金属片だ。自分の札だけを受付へ返し、退団届を端末へ入力する。
前のチームでも、最初の失敗で翌日の集合場所を教えてもらえなかった。今回も、ヒカリたちはもう次の案内役を探しているはずだ。三人の装備欄を確認すると、次回予約は空白だった。それを別チームへ移る準備だと決めつけた。
退団理由には「能力不足」とだけ打ち込んだ。言い訳を書けば、引き止めてほしいように見える。
送信直前、重い音がした。
盾役のヒカリが、ひび割れた大盾をソウジのロッカーへ立てかけた。
「修理に三日。預かって」
「僕は辞める」
「持ち逃げしたら追う。だから三日後もここにいろ」
魔術師レムナは、失われた魔核の代わりに折れた測量杭を机へ並べていた。地図を開き、崩落地点へ赤線を引く。
「三十秒遅かった。でも、その前の四時間は正しかった。次は私も時計を見る」
受付主任ミサキは最終シャトルの発車表示を『待機』へ変えた。乗客名簿には四人分の席が残っている。
「反省会が終わるまで出しません。運行責任者は私です」
「みんなは悪くない。僕を外せば済む」
ヒカリは盾の留め具を外し、レムナは地図の端を押さえ、ミサキは退団届の端末をソウジから遠ざけた。
誰も失敗を褒めなかった。次の潜行は浅層から、撤退判断は二人確認、配信は停止。厳しい条件が三つ並び、そのすべてにソウジの名があった。
「また、帰る場所がなくなると思った」
掲示板で金属音が続く。ヒカリ、レムナ、ミサキが自分の帰還札を、ソウジの札の隣へ掛け直していた。
四枚が揃うまで、最終シャトルの扉は閉まらなかった。