終着駅のゴールデンチケット
鉄道模型店を営んでいた折原路生は、遺言動画で金色の切符を掲げた。
『このゴールデンチケットを手にした者は、生涯、全路線に乗れる』
孫の芹は動画を止めた。
「全路線って、全国の鉄道?」
叔父の泰悟は身を乗り出した。
「私鉄も新幹線もなら、年間百万円は浮く」
伯母は計算機を叩いた。
「三十年使えば三千万。転売ならもっと」
「本人限定でしょう」
「名義を確認する前から私を高齢者扱いするな」
「三十年という数字を出したのは伯母さんです」
三人は利用計画まで立て始めた。
「平日は私、休日は泰悟」
「本人限定なら貸せない」
「家族名義へ変更する」
「鉄道会社を相続した気でいる?」
「全国を一周して元を取る」
「移動だけで人生を使い切るよ」
切符は祖父の店のどこかに隠されているらしい。三人は棚を分担した。
「駅名の箱を優先して探せ」
「〈終着駅〉って書かれたジオラマがある」
「そこに決まってる」
「待って。祖父さんはいつも“旅は途中がいい”って」
「遺産探しに文学的解釈を持ち込むな」
店内には百以上の模型車両、駅舎、トンネルが並ぶ。叔父は寝台列車の模型を分解し、伯母は駅弁のミニチュアを振った。
「米粒しか入ってない」
「ミニチュアの駅弁に本物の米を期待したの?」
「祖父なら暗号を仕込む」
「弁当を振る人に鉄道愛を語られたくない」
やがて芹が、店の最奥にある小さな改札機を見つけた。切符投入口へ〈黄金色の紙以外お断り〉と貼られている。
三人は同時に手を伸ばした。
「年長者優先」
「相続順位に年長者割引はない」
「私は店を手伝った」
「私は祖父さんと旅行した」
「私は毎年お年玉をもらった」
「それは貢献ではなく受益!」
争ううち、模型列車が動き出した。車掌姿の人形が一周し、終着駅で停車。貨車の屋根が開き、金色の切符が現れた。
泰悟がつかみ、勝ち誇った。
「全路線、私のものだ!」
切符には細かな字でこうあった。
〈有効区間 店内ジオラマ全線。乗車できるのは指先のみ〉
芹が笑った。
「生涯無料だね」
模型店の年間乗車料金は、もともとゼロ円だった。