緑のシールを剥がす

昼の出荷まで二十五分、牧野つぐみはサンドイッチの容器から緑のシールを剥がした。

緑は動物性原料不使用の印だ。後輩が今朝仕込んだバジルソースには、新しい納入品が使われている。瓶の表には大きく〈植物の香り〉とあるが、裏の原材料欄には粉チーズが入っていた。

すでに百四十個が包装され、駅売店と大学の購買へ運ぶ台車に載っている。厨房責任者は一本を味見し、「乳アレルギー対応とは書いていない。ヴィーガンの人が一食間違えるだけなら、廃棄の方が損だ」と言った。

つぐみは発注仕様書を開いた。商品説明には〈動物性原料不使用〉と明記されている。買う人が宗教、体質、信条のどの理由で選ぶかを、作る側が軽さで決めることはできない。

「全数、出荷から外します」

つぐみは同じパンと野菜を使い、ソースを塩レモンへ替えることにした。焼成担当を包装へ回し、自分はソースを作る。後輩にはシールを剥がさせるのではなく、新旧の瓶を並べて原材料の差を一覧にさせた。

「緑のふただったから、前と同じだと思いました」

「色はメーカーが決める。私たちの約束は原材料で決めよう」

つぐみは納入品を開封するたび、仕様変更の有無へ印を付ける欄を作った。動物性原料、主要アレルゲン、アルコールの三項目は、商品名が同じでも毎回確認する。緑のシールは、確認者二人の署名がそろうまで印刷できない設定に変えた。

出荷は九分遅れた。売店には遅延理由を説明し、旧表示の商品が一つも混じっていないことを伝えた。交換した塩レモンのサンドイッチは、予定品とは違うと分かる札を付け、黙って代用品にはしなかった。大学購買の担当者は、「選べると思って買う学生がいるから、止めてくれて助かった」と答えた。午後には、塩レモンも定番にしてほしいという感想まで届いた。

責任者は、予定数を作れなかった後輩を別部署へ移すと言った。つぐみは新しい工程表を差し出した。

「この手順を教える人が必要です。私が班を持ちます」

避け続けていたシフトリーダーの任命欄へ、つぐみは自分で署名した。