縁側の四人目
夫を亡くした女性は、毎日夕方になると縁側へ座った。
遠くで暮らす息子は、仕事が忙しいと言って二年帰っていない。
女性は「来なくていい」と電話で答えながら、門を通る影が伸びるたび顔を上げた。
秋分の日、夕日が庭へ長く差した。
女性の隣に、子どもの小さな影が一つ現れた。
本人はいない。縁側には女性しか座っていない。
その家では、日暮れどき、来ない人を待っている者の隣へ、子どもの影が座った。
女性は最初、亡くなった夫か、幼い頃の息子の影だと思った。
話しかけても動かない。
ただ門を見つめるように、丸い頭を傾けている。
数日後、隣家の少年が学校帰りに縁側へ来た。
母親の帰宅が遅く、鍵をなくしたという。
女性が茶を出すと、小さな影は女性の隣から少年の隣へ移った。
「これ、見える?」
女性が聞くと、少年はうなずいた。
「座敷童子かな」
「外にいるけどね」
少年は、父親が別の町で暮らしていることを話した。
毎月会う約束だが、仕事で何度も延期されている。
「待ってないふりをすると、影が来るんだ」
少年は知っていたらしい。
女性は、自分だけが見守られているのではないと分かった。
待つ人のそばへ影が来るのは、寂しさを消すためではない。
誰かが隣に座れる余白を、目に見える形で残すためなのかもしれない。
それから少年は、母親が帰るまで女性の家で宿題をした。
ほかの子どもも一人、二人と集まり始めた。
縁側には三人、四人と並び、影が誰の隣にいるのか分からなくなる日もあった。
女性は息子へ電話した。
「帰ってこなくていいとは、もう言わない」
電話の向こうで息子が黙った。
「帰ってきてほしい。でも、帰れないならそう言って」
「年末には行く」
「無理なら無理でいい。ただ、待たせていることは忘れないで」
年末、息子は本当に帰ってきた。
門へ姿が見えた瞬間、縁側の小さな影は消えた。
女性は少し寂しく思った。
夕食後、息子は仕事を辞めようか迷っていることを話した。
家族を心配させたくなくて、誰にも言えなかったという。
翌日の夕方、今度は息子の隣に小さな影が座った。
女性は何も尋ねず、その反対側へ腰を下ろした。
影を挟んで、二人で庭を見た。
待っているのは、帰ってくる人だけではない。
言葉になるまで待っている気持ちもある。
古い家の縁側は、誰かがそこへ座れるよう、いつも一人ぶん長くできていた。