落ちた看板

広告研究会の部室で、瀬戸口環は壁のポスターを剥がしていた。

学生広告賞を取った作品。三人で作り、三人で同じ大手広告会社を受けた。説明会では「仲間と競う必要はない」と言われたが、内定したのは環だけだった。落選通知は、怜司と志乃に同じ時刻で届いた。

「それ、会社の研修室に飾るんだって」

環が言うと、牧野怜司が画鋲を外す手を止めた。

「受賞者名、環一人に直したやつ?」

「応募代表は私だったから」

「コピーは俺だ」

「調査は私」と二階堂志乃が言う。「でも面接では、役割を細かく説明できる人が評価されるんでしょ」

志乃は市立図書館に決まった。広告とは関係ない。怜司は、その大手を落ちたあと、社員六人の動画広告会社へ入る。

「環だけが成功したみたいになるの、嫌だな」

怜司の声は笑っていた。

「私だって、三人で作ったって言った」

「そのあと『あなた自身の貢献は』って聞かれて、一番おいしいところを持っていった」

「じゃあ何て答えればよかったの」

環が強く引くと、ポスターの端が破れた。

志乃は床に落ちた紙片を拾う。そこには、調査対象だった商店街の老人の手だけが印刷されていた。

「広告って、誰かの人生を一枚に縮める仕事だよね。就活も同じだった」

「図書館なら縮めない?」と環。

「本を分類番号にする」

「小さい会社なら?」

怜司は肩をすくめた。

「一人で全部やったことにできる」

三人とも、自分の進路を弁護しているうちに、相手を攻撃していた。正しさだけが、同じ部屋に残った。

環は破れたポスターを筒へ入れた。会社へは、新しく刷り直したものを送るという。

「名前、三人に戻すよ」

「会社が喜ぶね。チームワークの証明になる」と怜司。

志乃が部室の照明を消した。

「もうやめよう。合格者と不合格者で卒業したくない」

廊下へ出ると、環は東京、怜司は隣県、志乃はこの町の反対方向へ歩いた。

壁にはポスターの跡だけが四角く白く残った。三人の名札を留めていた画鋲の穴は、遠目には一つの黒い点に見えた。