葦束の軍旗

サルバ・ニーラが担ぐ軍旗の竿は、一本の木ではなかった。

細い葦を二十一本束ね、魚皮の紐で三か所を縛ってある。矢を受ければしなり、折れた葦だけを抜いて替えられる。沼の国では、硬い竿ほど早く死ぬ。

サルバの父も旗持ちだった。木竿を誇り、最初の矢で胸ごと折れた。父の名は歌に残らず、折れた竿だけが寺へ納められた。サルバはその日から、真っ直ぐな物をあまり信用していない。

対岸の敵弓兵は、それを知らなかった。

夜明け前、隊長はサルバへ言った。

「最初の斉射で旗を伏せろ。敵が軍旗を折ったと思って泥道へ出たら、もう一度立てる」

「伏せれば味方も崩れます」

「一息だけだ」

「一息で逃げる兵は、二息でも戻りません」

サルバは束の中央に通した革紐を緩めた。矢が当たれば葦束は弓のように曲がるが、根元は倒れない。遠目には旗が泥へ落ちたように見え、近くの味方には竿尻が立っていると分かる。

「曲がったまま戻らなければ」

「私が起こします」

沼の霧が薄れ、対岸の弓が一斉に鳴った。矢は雨より低く飛び、旗へ集まる。三本が布を貫き、六本が葦束へ刺さった。

竿は大きく撓み、軍旗が泥水すれすれまで沈む。敵陣から歓声が上がった。旗を折れば部隊は死んだも同じだと、乾いた国の兵は教えられている。

敵歩兵が土手を降り、沼中の細道へ入った。先頭は盾で足元を探り、後続が詰める。細道から外れれば、膝まで沈む。

サルバは腰を落とし、葦束を肩で押し返した。矢の重みと湿った布が竿を泥へ引く。中央の革紐が軋み、一本切れた。

隣の兵が手を伸ばす。

「支える」

「二人で起こせば、仕掛けだと見える」

サルバは一人で立った。脇腹の古傷が裂け、息が塩辛い。一本ずつ、葦が元の形へ戻っていく。

敵の半数が細道へ入ったところで、軍旗が霧の上へ跳ね上がった。死んだはずの旗が立ち、敵の足が止まる。後ろから押され、列が横へ崩れた。

隊長が泥へ槍を突き立てた。

「両岸、射て」

葦束の軍旗が矢を生やしたまま、真っ直ぐに立った。