誤送信された変身後
佐橋芽依が写真を送った先は、コスプレ仲間のグループではなかった。
金曜、二十二時十三分。
《新商品リニューアル班》という会社のチャットに、漆黒のドレス姿の自撮りが表示された。頭には鹿の角、唇は青、背後には作りかけの棺。写真の下には、芽依が添えた一文まで残っている。
《やっと魔女になれた! 明日これで行きます》
送信した瞬間、血の気が引いた。
既読が一、二、五と増えていく。削除ボタンを押したが、通信が止まり、画面は回り続けた。
二十二時十四分。
営業の山科:《すご》
二十二時十四分。
班長:《業務外の画像と思われます。保存・転送はしないでください》
二十二時十五分。
《メッセージを削除しました》
芽依は端末を伏せた。鹿の角を外す手が震え、鏡台へぶつけて小さな傷をつけた。
月曜に退職届を出すところまで想像した。会社では薄いベージュの服しか着ず、「休日は寝ています」と答えてきた。角を磨き、青い口紅を選ぶ時間が何より好きだとは、一度も言わなかった。
個人チャットの通知が来た。
送信者は、ほとんど話したことのないシステム担当の鷺沼だった。
《画像は管理権限で削除しました。キャッシュも順次消えます》
続いて、黒いドレスの袖部分だけを丸で囲んだ小さな画像が届く。
《保存したわけではなく、削除前に見えました。そこ、手縫いですか。私も同じ作品で鎌を作っています》
芽依はしばらく返信できなかった。
助かった、とだけ送れば、月曜から何もなかった顔ができる。
けれど、写真に写っていた自分は、失敗そのものではなかった。送り先だけを間違えたのだ。
芽依は班のチャットを開き直した。
二十二時二十一分。
佐橋:《私物写真の誤送信です。写っているのは私です。削除対応ありがとうございます。保存・転載はしないでください。月曜からも通常どおり勤務します》
班長から了解のスタンプがつき、山科の《すご》は本人によって消えた。
最後に芽依は、傷のついた角をかぶり直し、正しいグループへ同じ写真を送った。
今度は宛先を三度確認した。角の向こうで笑う自分を、切り取らずに。