議事録に残らない声
【生徒指導審査会 午後四時開始】
小暮井貴臣は、机の中央にボイスレコーダーを置いた。
弁論部の全国選抜試験で、彼のポケットから解答メモが見つかった。部長の海堂碧人は、貴臣が試験前に監督教師へ近づいていたと証言した。監督教師も「質問を装って机を覗いた」と認めている。
審査委員長が尋ねた。
「録音を提出する理由は?」
「弁論部の練習記録です。試験前から回っていました」
【午後三時十二分の録音】
『小暮井の上着は後ろの椅子だ』
海堂の声。
『メモを入れたら、開始後十分で身体検査をする。君は驚いた顔をしなさい』
監督教師の声。
会議室の空気が変わる。
海堂は編集された音声だと主張した。貴臣はレコーダーの元データを情報担当へ渡す。ファイルは録音開始から終了まで分割されず、改変履歴もない。さらに弁論部室の監視カメラには、二人が貴臣の上着へ近づく姿が映っていた。
【午後三時十五分の録音】
『全国大会は一校一人だ。小暮井がいなければ、海堂で決まりだ』
監督教師がそう言うと、海堂は笑った。
『あいつ、言葉だけは上手いですからね。今度は何も言えなくしてやります』
審査委員長は録音を止めた。
「海堂君、これも編集ですか」
海堂は答えない。
貴臣は自分が監督教師へ近づいた理由を説明した。机の脚がぐらついていたため、交換を頼んだだけだった。試験室の映像でも、答案へ目を落としたまま机だけを指している。
監督教師は、部の将来を考えたと言い訳した。成績も発信力もある海堂を大会へ出したかった、と。
校長は全国選抜を無効にせず、貴臣の答案を別の審査員へ回すと決めた。海堂は選抜から除外、監督教師は部活動と試験業務から外された。
最後に委員長が議事録を読み上げる。
〈小暮井貴臣に不正行為なし。提出録音を正式証拠として保存する〉
海堂が以前言った“何も言えなくしてやる”という声も、同じ記録へ永久に残った。
貴臣の全国大会出場が確定した瞬間、返り討ちにしたのは彼の弁論ではなく、犯人たち自身の声だった。