貝貨の欠け目
赤土城コロの兵糧庫で、会計役のファラ・ケイタは貝貨の緒を数えていた。
一枚で粟一袋。緒には八十枚通っている。貝は海から千里運ばれ、この乾いた国では銀より信用された。だから欠け一つにも、持ち主と道筋が残る。
城に残る粟は、半袋だった。石臼の隙間から掻き集めた粉まで混ぜても、城兵百六十の朝粥には薄すぎる。
包囲軍の商使バカリが、城門の外から言った。
「八十袋を渡す。代わりに北門の閂を外せ」
証として差し出された貝貨の緒を、ファラは夕日に透かした。七番目の貝だけ、口が三角に欠けている。
コロの市場で税を納めた袋につける印だった。
「この粟はどこで手に入れた」
「南の商隊だ」
「嘘だ。三角の欠けは、北の河港でしか使わない」
包囲軍は三日前、河港の村々を焼いた。つまり八十袋は略奪品だ。そして使者が城へ売りに来るほど、敵陣にも回せない事情がある。
ファラは緒を耳元で振った。乾いた音が一つだけ鈍い。欠けた貝の中に、赤い土が詰まっている。
敵の穀袋を積んだ場所の土だ。北門前ではなく、西の涸れ井戸周辺にしかない色だった。
商使は門を買いに来たのではない。城内の飢えを確かめ、夜襲の時刻を探りに来たのだ。
「取引しよう」
ファラは言った。
「北門を夜半に開ける。粟は門前へ置け」
「先に閂だ」
「半分先だ」
バカリは迷い、四十袋を北門前へ運ぶと約した。
使者が去ると、城将のマンサ・トゥレが訊いた。門楼の下では、兵が革の水袋を腹へ巻き、空腹の音を押さえていた。
「罠だと分かっていて、なぜ受ける」
「八十袋は西の涸れ井戸にある。北へ四十運べば、西の守りも四十人減る」
「北門には敵が集まる」
「だから我々は西へ出ます」
半袋の粟を薄い粥にし、城兵全員へ一口ずつ配った。腹は満たされない。だが自分の脚で死に場所まで走るには足りる。
夜半、北門前に袋が積まれ、敵兵の影がその後ろへ重なった。
ファラは三角に欠けた貝を緒から外し、涸れ井戸の方角へ投げた。
マンサが槍を掲げる。
西の小門に、無月の黒旗が上がった。