赤字を止めた羽根ペン

金羊ギルドの会計室で、ヴィルダは英雄より嫌われていた。

遠征費の追加を断り、宴会の請求を差し戻し、契約書の小さな文字へ赤線を引く。前線へ出ない彼女の貢献度は一%。ギルド長オルディスは、資金不足の責任を彼女へ押しつけた。

「金を出さない会計など役立たずだ。数字にもそう出ている」

ヴィルダは鍵束を机へ置いた。最後に未決裁の書類を整え、自分の羽根ペンだけを持って去った。

その日の夕方、豪商が融資契約を持ってきた。資金難を救う好条件だと、オルディスは上機嫌で印章を押そうとした。会計担当になった冒険者は、細かな条文を読む前に酒を開けた。

忘れた外套を取りに来たヴィルダは、契約書の蝋を見て足を止めた。

「その印章は商会本店のものではありません」

オルディスは顔を赤くした。

「もう部外者だ。口を挟むな」

ヴィルダは書類を奪わず、机の上へ裏返した。紙の継ぎ目に、金羊の倉庫と依頼権を担保にする文言が隠れていた。融資ではなく、ギルドを丸ごと奪う契約だった。

豪商は笑みを消し、護衛へ合図した。だがヴィルダは会計室の窓を開けた。外には、彼女が事前に呼んでいた市の監査官が立っていた。似た契約が届くと予測し、退職前に通報していたのだ。

偽の豪商が連行されると、オルディスは急に柔らかな声を出した。

「誤解があった。会計主任として戻ればよい」

「主任では、あなたの浪費を止められません」

金庫の管理核が羽根ペンへ反応し、過去の帳簿を開いた。回収した違約金、避けた詐欺、値切った輸送費、守られた備蓄。金羊が潰れずにいた理由が、赤線の形で積み上がる。

遠征班の者たちは、毎月きちんと報酬を受け取れていた理由をようやく知った。ヴィルダは宴会を嫌っていたのではない。負傷者の補償と、次の遠征の薬代を先に残していたのだ。

彼女は帳簿を全員に公開し、役職者にも同じ申請欄を使わせた。口約束の支出を禁じ、不正な決裁を止めた者が罰せられない規程を置く。

オルディスがギルド長権限を主張して印章を押すと、帳簿は申請欄へ差し戻した。広間に、今度は笑いではなく安堵が広がった。

《資産保全・真正査定》

旧評価 一% → 真値 九十三%

総合貢献順位 首位:ヴィルダ

役職更新 会計係 → 財務総監

旧ギルド長オルディス → 支出申請者