返事は上履きの中
下駄箱へ足を入れた瞬間、紙が潰れる音がした。
慌てて上履きを脱ぐと、つま先から小さな封筒が出てきた。昨日、僕が入れたラブレターへの返事らしい。
ただし、見事にしわくちゃだった。
封筒の角は折れ、僕の靴下の形にへこんでいる。中の便箋まで読めるか怪しい。
教室へ向かう廊下で、彼女が柱の陰からこちらを見ていた。目が合うと、すぐ隠れた。
「返事、上履きの中に入れた?」
近づいて聞くと、彼女は小さくうなずいた。
「下駄箱の奥なら見つけると思って」
「見つけた。足で」
封筒を見せると、彼女は両手で顔を覆った。
「読まないで」
「返事なのに?」
「書き直す」
「気になる」
僕らは朝の廊下で、しわを伸ばした。便箋は二つ折りだったはずが、六つ折りくらいになっている。文字の一部は靴下の湿気でにじんでいた。
最初の行は読めた。
『手紙、うれしかったです。』
二行目は、ちょうど折り目で消えている。
『私も、あなたのことを――ません。』
「これ、どっち?」
「どっちって」
「好きかもしれません、なのか、好きではありません、なのか」
彼女はさらに赤くなった。
「文の長さで分からない?」
「にじんでる」
僕は光へ透かした。消えた部分に、うっすら二文字見える気がする。
彼女は便箋を奪おうとし、僕は反射的に高く上げた。身長差のせいで届かない。朝の生徒たちが何事かと振り返る。
「返して」
「口で言って」
「無理」
「じゃあ読ませて」
「もっと無理」
攻防の末、便箋はまた床へ落ちた。今度は清掃用の水滴を吸い、完全に読めなくなった。
二人で黙って見下ろした。
彼女が先に笑った。僕も笑った。
「返事、なくなった」
「書き直す?」
「もういい」
彼女は僕の制服の袖をつまんだ。
「好きかもしれません、のほう」
「かもしれません?」
「今のところ」
「ではありません、じゃなくて?」
「しつこい」
一時間目の予鈴が鳴った。僕らは並んで教室へ走った。
しわくちゃの便箋は、あとで乾かしても文字が戻らなかった。それでも僕は捨てなかった。
返事は紙ではなく、その朝の袖に残っていた。