返事は来年の春に

七十一歳の箭内佳苗に、来年の日付で返信通知が届いた。

〈あなたの提案に「承諾」が選択されました〉

元の提案文は、まだ存在しない下書きだった。

佳苗は三年前、男から同じ提案を受けかけたことがある。彼が『もしも』と言ったところで、亡夫の写真が目に入り、話を変えてしまった。それ以来、二人は互いの家を行き来しながら、泊まらず、合鍵を持たず、寂しさだけを礼儀正しく隠していた。未来の下書きは、佳苗が何年も胸の中で書いては消した文と同じだった。

〈一緒に暮らしませんか〉

佳苗が思い浮かべた相手は一人しかいなかった。幼なじみの男で、互いに伴侶を亡くしてから、週に一度だけ夕食を共にしている。彼は食後に必ず湯のみを洗い、九時になると帰った。

未来で承諾されるなら、慌てる必要はない。佳苗はそう思い、下書きを送らなかった。男が腰を痛めても、泊まっていけばとは言えなかった。家具店の広告を見ても、二人用の机を買わなかった。

ところが冬、男は娘夫婦の住む町へ移ると言った。

「一人で倒れるのが、怖くなってね」

佳苗は腹を立てた。来年の春に承諾するくせに、なぜ勝手に去るのか。だが口にしてみると、それが未来を盾にした身勝手だと分かった。

彼女は端末を見せた。

男は老眼鏡を掛け、何度も読み直した。

「来年の私は、ずいぶん決断が早いな」

「今のあなたは?」

「今の私は、一緒に住めるか試してもいない」

二人は笑った。その夜、佳苗は下書きを消し、別の文を送った。

〈まず一週間、泊まってみませんか〉

男は十分後に〈承諾〉を押した。

一週間は三週間になり、喧嘩もした。男はいびきが大きく、佳苗は冷蔵庫の扉を長く開けすぎた。春を待たず、二人は近くの小さな部屋を借りた。どちらかの家に入るのではなく、新しい場所で暮らすためだった。

翌年、未来通知の日が来た。画面には、もう何も表示されなかった。選ばなかった未来の返信は消えていた。

佳苗は残念に思わなかった。返事が来ると知って待つより、返事が分からない相手へ今日尋ねるほうが、人生には必要だった。