透明インクの文化祭予算
文化祭実行委員会で、花房依織の企画書だけが机から消えていた。
代わりに、委員長の榎本蓮が同じ内容の企画をスクリーンへ映す。
「校内謎解き祭。僕が一人で考えました」
拍手が起きる。依織が三週間かけて作った問題、動線、予算表まで、そのままだった。蓮は毎晩、依織へ修正を命じ、完成すると「地味な裏方は名前を出すな」と脅してきた。
「それは私の企画です」
「また被害妄想?」
蓮は笑い、依織の鞄から丸めた紙を取り出した。
「ほら、彼女が僕の企画書を盗んでいた。自分の名前を書き足して」
委員たちがざわめく。紙の表紙には依織の名があるが、印刷時刻は今朝。蓮は証拠を用意していた。
「盗作を認めるなら、退学までは求めないよ。委員を辞めて謝罪動画を撮ろう」
依織は紙を窓へ向けた。日光を受け、各ページの余白に細い文字が浮かぶ。
『原案・花房依織 初版九月二日』
文化祭用紙には、不正流用を防ぐ透明インクの透かしが入る。原案者が校内プリンターへ最初に登録した時刻と名前は、再印刷しても消えない。
蓮の顔が固まった。
「花房が後から登録情報を変えたんだ」
「変更には委員長の承認が必要です」
依織が最終ページを開くと、『原案者名を榎本蓮へ変更』という申請と、承認者・榎本蓮の電子署名が表示された。蓮は自分の手柄にするため、昨夜、自分で改ざん申請を出して承認していた。
さらに予算表には、依織へ買わせた材料費を「委員長立替」として二重請求した履歴も残る。蓮は慌てて投影を切ったが、今日は生徒会監査の日で、画面は校長室へ共有中だった。
「これは演出だ。文化祭を盛り上げるための」
「では、謝罪動画も演出ですか」
依織が机の録音機を押すと、蓮が放送委員へ「泣くまで撮れ」と命じた声が流れた。録音機は蓮自身が、依織の謝罪を残すために置いたものだった。
扉が開き、校長と生徒会顧問が入る。校長は処分書を広げた。
「榎本蓮。継続的ないじめ、成果の横取り、文書改ざんおよび不正請求により、文化祭委員長を解任し、停学処分とする」