透明外套の終わり縫い

修理店《裏返し》へ入ってきたのは、泥のついた二足の長靴だけだった。

「驚かないでくれ。中身はいる」

声に続いて、見えない手が透明外套を台へ置く。持ち主のイリスは森の斥候で、三日前から姿を消したまま戻れない。外套を脱いでも透明で、隊では亡霊扱いされ、報告書に署名すらできなかった。食堂では誰かが彼女の椅子へ座り、浴場では悲鳴を上げられ、給与窓口では「本人確認不能」と追い返された。何より、発見した魔獣の巣を報告できなければ、明朝そこを通る隊が襲われる。見えない顔のあたりから、苛立ったため息だけが聞こえた。

店主ザフィールは空中へ椅子を勧め、外套の裾を光へ透かした。

透明化の布は、縫い始めの印と縫い終わりの印が一対になっている。ところが裾の一角に、始まりを示す三角紋しかない。

「枝に引っかけましたね」

「熊から逃げたときに」

裂けた部分と一緒に《終わり縫い》が失われ、魔法が解除命令を受け取れなくなっていた。

ザフィールは透明糸を使わなかった。見えない縫い目は、次に壊れた場所がわからない。赤い糸で三針だけ縫い、最後を四角く結ぶ。

「目立つぞ」

「終わりは、見えたほうがいい」

結び目を指で弾くと、まず外套の輪郭が現れた。次に長靴の上へ脚が戻り、胴、腕、最後に困り顔のイリスが色を取り戻す。消えていた三日分を取り返すように、頬へ赤みが広がった。赤い三針は裾で小さな目印となり、解除の場所を指している。

彼女は自分の手を裏表に返し、頬をつねった。

「見える」

「見えます。かなり泥だらけです」

イリスは笑い、鏡の前で外套を留め直す。留め金を閉じれば消え、赤い結び目を引けば一瞬で戻った。以前より解除が速い。

彼女は代金と、森で採れた希少な透明茸を一籠置く。

「余分は口止め料。私が三日間、隊長の悪口を目の前で聞いていたことは秘密だ」

「修理内容以外は聞いていません」

姿を消して出ていったが、扉だけは礼儀正しく開閉した。

ザフィールが透明茸を棚へ移すと、誰も見えないままベルがもう一度鳴った。