週休三日ではありません
日曜日が消える会社では、土曜の退勤時に未処理の仕事を机へ置く。月曜の朝にはすべて完成しているが、日曜分の給与は発生しない。社員は働いた記憶がないため、労働とは認められない。それを就業規則では「週休三日ではありません」と太字で説明していた。
網代廉士は、月曜になるたび右手が痛んだ。
キーボードを打ち続けたように指が腫れ、爪の間に黒いトナーが入っている。机の上には完成した企画書が積まれ、どれも廉士の署名入りだった。
「日曜の君、仕事が速いな」
課長は笑った。土曜の廉士が残した量ではない。誰かが追加している。だが日曜の作業を確認してはいけない。監視カメラも入退室記録も、消えた曜日には保守中と表示される。
同僚の小佐野が月曜に倒れた。両手の指先が擦り切れ、ワイシャツの袖に乾いた血がついていた。救急車の隊員は「日曜疲労ですね」と診断し、火曜から出社できると言った。
廉士は土曜の夜、机の引き出しに小型録音機を入れた。映像は規則違反だが、音声について規定はない。
月曜、録音機には七時間分のキー音が入っていた。途中、廉士自身の声が聞こえた。
「眠い」
別の声が答えた。
「月曜のお前が休むからだ」
それも廉士の声だった。
録音の最後、課長が仕事を追加する音がした。紙を置きながら、「日曜なら断らない」と言っている。
廉士は労務へ訴えた。担当者は録音を聞き、首を横に振った。
「日曜の発言者は在籍者ではありません。証言能力がない」
「俺の声です」
「月曜のあなたとは別人です」
その週の土曜、廉士は机に仕事を残さなかった。代わりに退職届を一枚置いた。宛名も理由も空欄で、署名だけした。
月曜、退職届は受理済みになっていた。最終出勤日は昨日の日曜日。会社からは、日曜勤務者だけに支給されるという工具箱が届いた。
中にはキーが一つ抜けたキーボード、指先の形にへこんだ赤いスポンジ、右手用の作業手袋が入っていた。
手袋の人差し指だけが破れ、内側からまだ温かい血が一滴、白い退職届の「本人控え」に落ちた。