違う名字の宅配便
天文台の宿直明け、私の部屋へ見覚えのない名字の荷物が届いた。
見覚えがないわけではない。二十五年前、結婚していれば名乗っていた名字だった。
送り主は空欄で、住所だけは間違いなく私の部屋である。
配達員が端末を差し出した。
受取欄へその名字を書くと、玄関の向こうが別の家になった。
靴が三足、乱雑に並んでいた。
台所には、結婚した私がいる。元恋人だった人は白髪になり、子どもらしい若い女性が食卓で模型の惑星を作っていた。
私は海外の研究所へ行かず、家族を選んだらしい。
若い女性が箱を開けた。
中には星図と、私の天文台でしか配っていない観測記録が入っている。
「お母さん、本当は星の仕事をしたかったんでしょう」
向こうの私は笑って否定したが、指は星図から離れなかった。
壁には家族写真が並んでいた。運動会、海水浴、卒業式。
胸が痛むほど眩しい。
けれど写真の隅に、使われていない望遠鏡があり、向こうの私の手帳には、行けなかった観測地の名前が何十も書かれていた。
若い女性がこちらに気づいた。
私を母の姉妹だと思ったのか、模型の土星を差し出した。
「輪がうまくつかない」
私は玄関越しに針金の曲げ方を教えた。
向こうの私は、私の制服に縫われた天文台の印を見つめていた。
「そちらには、誰かいる?」
唇の動きで分かった。
私は答えに迷った。
夫も子どももいない。だが毎月、観望会へ来る子どもたちがいる。雲の日にも来て、星が見えないことまで面白がる子たちだ。
「いる。大勢」
そう言うと、向こうの私は安心したように笑った。
配達員が咳払いし、端末の画面が消えた。
玄関は元の狭い廊下へ戻り、荷物もなくなっていた。受取欄には、今の私の名字だけが残っていた。
その週末の観望会で、私は土星の模型作りを追加した。
輪を失敗した子には、何度でも針金を渡した。
終了後、一人の少女が「先生は星と結婚したの?」と尋ねた。
「振られたり、仲直りしたりしてるところ」
答えると、少女は真剣にうなずいた。
帰宅すると、玄関に小さな段ボールがあった。
今度は今の名字で、差出人は天文台の子どもたち。
中には不格好な惑星がいくつも入っていた。
選ばなかった家族の姿は消えた。
それでも私の部屋の天井には、誰かが作った星が少しずつ増えていった。