配信中の別窓

御堂坂司真の妻・水城野瑠依奈は、配信の中で夫を“背景”と呼んでいた。

「家事だけしてくれる無口な人。恋愛感情はもうないかな」

画面外で笑っていたのは、マネージャーの椎名崎陸央だった。二人は司真が機材に疎いと思い、彼の前でも距離を隠さなくなった。

司真が離婚を告げると、瑠依奈はカメラへ向かって泣く練習をしながら言った。

「証拠がなければ、世間は人気者の私を信じるよ」

翌日の企業配信。瑠依奈が新商品の画面を共有した瞬間、別窓のチャットが映り込んだ。

〈今夜も同じホテル〉

〈司真、まだ気づいてない〉

〈別れたらスポンサー料で暮らそう〉

陸央はすぐ配信を切ったが、数万人が録画していた。

二人は誤送信と加工を主張した。そこで司真の弁護士が、配信会社の正式なアーカイブを提出する。画面共有ログ、端末識別番号、送信時刻。さらに事務所の予定表とホテルの予約履歴が一致し、二人が企業案件の“地方撮影”として宿泊費まで請求していたことが分かった。

司真は視聴者の切り抜きを証拠に使わなかった。事務所と配信基盤が保存した原本だけを、公証人の立会いで保全していた。

スポンサー企業の会議室で、瑠依奈は最後まで強気だった。

「炎上は数字になります。むしろ注目度が上がる」

広報責任者は契約書を閉じた。

「不倫そのものではなく、虚偽の経費、ブランド配信での侮辱発言、隠蔽工作が解除理由です」

全スポンサーが契約を終了し、違約金を請求。事務所は瑠依奈と陸央を解雇した。司真の代理人からも、双方へ慰謝料請求が届く。

瑠依奈の両親は、家族を商品にして嘲った娘を実家へ入れないと伝えた。母が管理していた家族名義の口座も停止された。

瑠依奈は司真を見た。

「あなた一人じゃ、誰も見ないよ」

司真は配信卓の管理画面を開いた。映像技術者として裏方をしていた彼には、すでに別会社から制作責任者の契約が届いていた。

事務所担当者が瑠依奈と陸央のアカウントを削除する。

配信画面の別窓が完全に閉じた瞬間、背景と笑われた司真だけが、次の番組へ名前を残した。