針のない柱時計

篤紀が柱時計を持ち込んだとき、怜司は露骨に顔をしかめた。

「それ、俺の店じゃ扱わない」

「時計修理って看板にある」

「腕時計専門」

「同じ時計だろ」

二人は篤紀の父と怜司の母の再婚で兄弟になった。十年後に離婚し、親たちはそれぞれ別の町へ移った。残ったのは、共同生活の記憶と、古い柱時計だけだった。毎正時、家じゅうに響く音がうるさく、二人とも嫌っていた。

その時計が、母の引っ越しで処分されると聞き、篤紀が引き取った。ところが長針が外れ、振り子も止まっている。

怜司はため息をつきながら裏蓋を開けた。

「油が固まってる。歯車も一枚欠けてる」

「直る?」

「部品を作れば」

「頼む」

「客として?」

「兄として、は気持ち悪いから客で」

怜司は料金表を指した。篤紀は黙って財布を出した。

閉店後、二人で作業した。怜司が歯車の寸法を測り、篤紀が小さなヤスリで樹脂板を削る。細かすぎて何度も形を崩した。

「不器用だな」

「昔、図工はおまえより上だった」

「母さんに手伝ってもらってたから」

「見てたのか」

「隣の部屋だったし」

同じ家にいた頃、二人はなるべく顔を合わせなかった。それでも互いの生活音だけは覚えている。篤紀が夜中に帰る音、怜司が試験前に鉛筆を転がす音、そして柱時計の鐘。

新しい歯車を入れ、振り子を動かす。数秒後、かち、かち、と音が戻った。針を十二時に合わせると、鐘が十二回鳴った。店の狭い作業場には大きすぎる音だった。

「やっぱりうるさいな」と篤紀が笑った。

「持って帰れ」

「置く場所ない」

「じゃあ何で直した」

「捨てられるのが嫌だっただけ」

怜司は壁を見回し、商品棚の上に空いた場所を見つけた。柱時計を掛け、少し傾きを直した。

翌日から、店は正時ごとに鐘を鳴らした。客には評判が悪く、怜司は音を四回までに減らした。篤紀は月に一度、ゼンマイを巻きに来るようになった。

三か月目、篤紀が来ると、作業台の引き出しに自分用の巻き鍵が入っていた。値札も伝票もない。怜司は修理中の腕時計から目を上げず、「閉店後なら勝手にやれ」と言った。

篤紀は店の鍵までは渡されていない。それでも入口の内側には、以前なかった折り畳み椅子が一脚置かれていた。鐘が鳴るまで、そこで待つことにした。