針子横丁の二階
仕立屋が並ぶ針子横丁では、親を亡くしたリュヌたちが作業台の下で眠っていた。昼は見習い、夜は「置いてもらう代わり」に残業する。誰も鎖を付けてはいないが、寝床を失うのが怖くて断れなかった。
組合監査役サイラスは、空いている共同倉庫の二階を住居にする案を出した。
親方たちは渋い顔をする。
「また売上から取るのか」
「売上すべてではない。月に銀貨二十枚を超えた店だけ、超過分の百分の二。赤字店はゼロ。集めた金の六割を住居、二割を医療、二割を修繕積立へ。数字は横丁の入口と住居の玄関、二か所に掲示する。私の妻の店も同率だ」
さらに、住居と雇用を切り離した。子どもが店を辞めても三か月は退去させない。労働の対価は賃金で払い、「寝かせてやった」を賃金から引かない。
制度を貼り出した日の夕方、ある親方が「ならば出来の悪い見習いを住居から外せるか」と尋ねた。サイラスは、成績と居住資格を結ぶ欄を最初から空白にしていた。
「外せない。仕事を失った時ほど、次を探す住所が要る」
その答えを聞いた見習いたちは、初めて会議室の壁際から前へ出た。
一番反対していた刺繍店主が、翌朝、窓用の厚布を担いできた。
「税とは別だ。北風が入ると、針仕事の目にも悪い」
裁断師は余り板を棚にし、帽子職人は古いフェルトを防音材へ変えた。住居の会計係には大人一人と子ども二人を置き、針一本まで購入票を残した。リュヌたちは部屋割りを自分たちで決め、早起きの者を階段側、夜に本を読む者を奥へした。サイラスが年長者に管理鍵を一本だけ渡そうとすると、全員分を作るよう求めた。
完成の日、親方の一人が「恩返しに横丁の旗を縫え」と冗談めかして言った。リュヌは笑わなかった。
「注文なら、工賃表どおりで」
沈黙の後、親方はきちんと発注書を書いた。初めて、寝床を人質にしない仕事が始まった。
玄関には十二個の小さな郵便受けが並んだ。夕方、配達人が一通目の手紙を入れる。
宛名には店名ではなく、リュヌ自身の名が書かれていた。