銀山を止めた半粒の差

銀山の朝番は、誰一人つるはしを振り上げなかった。

坑口前の給金台で、監督が昨日と同じ額の袋を配ったからだ。

「一台車につき銀貨二枚。公平だろう」

高品位鉱脈を掘った第七班の袋も、石ばかりの第三班と同じ。第七班長は鉱石を一つ割り、中の銀筋を見せた。

「この半粒の純度差で、精錬後の価値は三倍になる」

昨日追放された経理担当エノハは、各班の鉱石を小皿で試し、純度に応じて歩合給を計算していた。領主は「石を数えるだけで鉱夫より高給を取る」と罵り、平地へ追い出した。

監督は働かなければ全員解雇すると叫んだ。すると第七班だけでなく、二十班すべてがつるはしを地面へ置いた。正しく測られない山では、良い鉱脈を見つけるほど損をする。

昼には精錬炉へ運ぶ鉱石が尽き、炉火が落ちた。一度冷えた炉を戻すには金貨百枚と三日が必要だった。

王立造幣局からは、銀塊の納期を守れなければ契約を打ち切るとの鳥便が届いた。領主は第七班だけ賃上げすると提案したが、鉱夫たちは応じない。今日だけの褒美では、明日の純度がまた無視されると知っていた。

夕刻には、腕の良い鉱夫から順に谷向こうの共同組合へ歩き始めた。止まったのは炉だけではない。銀山から技術そのものが流れ出していた。

その頃エノハは、谷向こうの鉱夫共同組合で最初の給金を計算していた。秤と純度札を全員に見える場所へ置き、誰でも計算を確かめられるようにする。

老鉱夫は袋を受け取り、帽子を脱いだ。

「四十年掘って、初めて腕前を銀貨で見てもらえた」

組合は満場一致で、彼女を会計長に選んだ。

純度札が公開されると、若い鉱夫たちは良い鉱脈の見分け方を古参へ尋ね始めた。正しい歩合は争いを増やさず、技術を教える理由を生んだ。共同組合の炉には、夕方も途切れず鉱石が届いた。

夕方、領主の騎士が坑口停止の損失額を携えて来た。

「戻れば追放はなかったことにする。鉱夫どもを働かせろ」

エノハは共同組合の新しい秤を水平に合わせた。

「追放は記録済みです。領山との契約も、その日をもって精算済みです」