銀蓋に残った紋章

王太子の昼餐で毒が見つかり、毒見役エレネ・クォーツはその場で膝をつかされた。

「スープを確認したのは、この女です」

侍従長ベイルンが、エレネの袖から小さな毒包みを取り出す。

「王太子殿下を害し、北方との婚姻を潰そうとした。毒見役ほど毒を入れやすい者はいません」

エレネは、毒見を終えた時点では異常がなかったと答えた。ベイルンは「毒が遅れて溶けるよう仕込んだ」と嘲り、処刑同意書へ証人として署名する。

王太子は青ざめながらも、銀の食器蓋を見た。

「これは、誰が開けた」

「毒見役に決まっております」

ベイルンは即答した。

王家の銀蓋には、厨房を出てから開けた者の紋章を一つだけ記録する《守餐印》がある。毒見の後に蓋を閉じると記録は初期化され、食卓で最初に開けた者だけが残る。ベイルンが暗殺対策として導入し、絶対に偽造できないと国王へ保証した術式だった。

王太子が蓋の取っ手へ光を注ぐ。

浮かび上がったのは、翼をくわえた蛇。

ベイルン家の紋章だ。

「配膳の確認で触れただけです!」

「開けたのですね」

さきほどの〈毒見役に決まっている〉という断言が、広間中に聞かれている。

守餐印はさらに、開封時に蓋へ触れた物質を小さな結晶として吐き出した。濃紫の粉。エレネの袖から出た包みと同じ毒だが、包みの封蝋にもベイルンの紋章が押されていた。

彼は自分の家紋なら、侍従長としてどこにあっても疑われないと思ったのだろう。だが家紋は、責任の所在を示すためのものでもある。

エレネは立ち上がり、毒見役の銀鎖を首へ戻した。

王太子が近衛隊へ命じる。

エレネは毒見の際、ほんのわずかな苦味に気づき、飲み込まず口中へ留めたまま合図を送っていた。近衛医がすぐ王太子の椀を下げたため、実際には一口も飲まれていない。ベイルンは王太子が倒れたと思い込み、用意していた犯人役を急いで差し出した。その焦りが、封蝋も証言も粗雑にした。

「侍従長ベイルンを、王族暗殺未遂および忠臣への冤罪工作の罪で逮捕せよ」