鍵のいらない誕生日
瑞花の誕生日会に、私は呼ばれなかった。
毎年、午前零時に部屋へ入り、寝ている瑞花を起こして祝うのは私の役目だった。彼女は驚くのが苦手だから、玄関で三回だけ鈴を鳴らす。起きなければ寝室まで行き、翌日の服を枕元へ置いてやる。
今年も合鍵で開けようとすると、鍵穴が変わっていた。瑞花は一人暮らしが苦手だから、非常時に備えて鍵を預かっていたのに。
もう一つ変だったのは、インターホンが外されていたことだ。瑞花は宅配にも出られないほど臆病だ。私が代わりに受け取れるよう、在宅予定は全部共有していた。
電話を怖がる日は、瑞花の端末を機内モードにして私が返信した。誘いが多いと疲れるから、必要のない友人は通知ごと消した。麻凛たちは以前、その気遣いを「伽耶フィルター」と呼んで笑っていた。
電話には、仲良しグループの麻凛が出た。
「今日は来ないで」
「サプライズを壊したくないなら、場所だけ教えて」
麻凛はしばらく黙り、「今日の主役は瑞花じゃない」と言った。
指定された喫茶店には、瑞花と二人の友人、相談員がいた。瑞花の前には、私が禁止していた濃い紅茶が置かれていた。顔色は悪くない。なのに私を見ると、カップを両手で隠すように握った。机の上には、私が送った生活表が並んでいた。起床、服薬、食事、交友、就寝。守れなかった日は赤くし、三日続けば瑞花の母親と上司へ共有した。本人だけに任せて悪化するより、周りで支えるべきだと思った。瑞花が通知を無視するので、私は端末を預かり、代わりに返事をしてきた。
「伽耶がいないと何もできないって、ずっと思わされてた」
瑞花は、新しい部屋へ移ったと告げた。誕生日会ではなく、私に住所を知られず引っ越すため、皆が集まったらしい。
私は、瑞花が泣く夜に駆けつけ、仕事を辞めたいと言えば上司へ連絡し、知らない男から誘われれば削除した。支配ではなく、世話だ。
瑞花は私へ合鍵と手紙を返した。手紙には、今後一切連絡しないで、とあった。
古い部屋へ戻ると、家具は消えていた。
空のリビングで、私が仕掛けた見守りカメラだけが青く瞬いた。