鏡蜘蛛の糸は盗人の手を映す
王家の星冠が消え、保管係タニアの机から宝石の欠片が見つかった。
裁判長は弁明を聞かず、彼女へ地下宝物庫の魔物退治を命じた。星冠の管理記録は彼女の署名で途切れ、同僚たちも処罰を恐れて目を伏せる。処刑を先延ばしにする者すらいなかった。
「鏡蜘蛛を倒せたら、処刑だけは免じよう」
濡れ衣を着せた財務卿が、傍聴席で薄く笑う。地下に棲む鏡蜘蛛は、相手の動きをそっくり返すボスだ。剣を振れば同じ剣、火を放てば同じ火が返る。
タニアは武器を持たず、床へインクを一滴垂らした。蜘蛛が同じ動きを真似て腹の鏡を下げた瞬間、彼女は書庫用の砂を投げる。曇った鏡へ、ただの紙切り鋏を突き立てた。
蜘蛛が砕け、銀色の糸巻きが一つ残る。
《一刻織り》。
ボスから「失われた物の行方を示す品」を確定させる《証拠指定ドロップ》で、タニアが狙った限定品だった。
裁判へ戻った彼女は、星冠が置かれていた空の台座へ糸を結ぶ。
「芝居はよせ」と財務卿が言う。
糸は勝手に宙を走り、半透明の布を織り始めた。映ったのは、盗難前の一時間。夜番のタニアが退出し、施錠する。続いて、誰もいないはずの壁が開き、財務卿が秘密通路から現れた。
布の中の彼は星冠を外し、欠片を折ってタニアの机へ入れる。そして王冠本体を自分の杖へ押し込んだ。
現実の傍聴席で、財務卿が杖を捨てる。
糸が杖へ巻きつき、飾りを剥がした。中から無傷の星冠が転がり出る。
「偽物だ! 映像も魔術で――」
「鏡蜘蛛は創作できません。見た動作を返すだけです」
タニアは冠を拾い、裁判長ではなく王女へ返した。
王女は自らタニアの手錠を外し、財務卿の前へ置く。さらに、虚偽の証言を強いられた書記たちへ免責を宣言した。俯いていた同僚たちが、ようやくタニアの目を見る。
「次は、あなたが保管される番です」
衛兵が財務卿を連れ去る。タニアの机に仕込まれた欠片も冠へ吸い戻され、傷一つ残らなかった。
役目を終えた布がほどけたあと、最後の銀糸に金文字が浮かぶ。
【鏡蜘蛛限定SSR《一刻織り》――完全再現による王宝回収、世界初】