門に残る妻
国境門で結婚の誓いを立てると、一方は閉ざされた境を自由に越えられる。
代わりに、もう一方は離縁の日まで、その門から千歩以上離れられない。
ヴァスティは崩れた礼拝所で、雨に濡れた契約書を押さえた。門の外には百二十人の避難民がいる。疫病ではない。ただ南の町で生まれたという理由だけで、兵士に通行を拒まれていた。
契約相手のイェルは薬売りだ。国境を越える許可証を持っていたが、今朝、役人に取り上げられた。
「夫婦の魔法なら、門番も止められない」とヴァスティは言った。「あなたが一人ずつ手を引いて、北へ渡して」
「百二十往復する間、君はここに縛られる」
「離縁は最後の人を渡したあとでいい」
イェルは門の向こうを見た。兵士たちは、離縁を認める司祭を北側へ連れていった。最後の一人が通った後も、司祭が戻る保証はない。
ヴァスティはその意味を知っていた。
この門から千歩の中には、礼拝所と井戸と、焼けた宿屋しかない。町までは三千歩。食料を買うにも、仕事を探すにも、誰かに運んでもらうしかない。冬になれば井戸は凍る。
さらに北には、彼女の母がいる。病床から届いた手紙には、春までは持たないと書かれていた。ヴァスティは母に会うため、三日三晩歩いてきた。
「ほかの女を探そう」とイェルが言う。「この辺りの者なら、門の近くで暮らせる」
「その間に兵士が列を追い返す」
避難民の先頭では、妊婦が石へ座り込んでいた。子どもが一人、濡れた布袋を抱いている。袋の中から猫の鳴き声がした。
ヴァスティの母も昔、戦火を逃れてこの門を越えた。幼い娘を背負い、父の墓も家も置いてきた。だから娘には、どこへでも行ける靴を履きなさいと言い続けた。
その靴が、泥の中で重かった。
「母上には俺が会いに行く」とイェルが言った。「君の言葉を全部持っていく」
「顔は持っていけない」
「覚えて帰る」
帰る。その約束が叶うかは分からない。
ヴァスティは契約書へ署名し、門の敷石に片足を置いた。
指輪が光ると、イェルの前で鉄門が音もなく開いた。彼は最初の子どもを抱き上げる。
ヴァスティも続こうとして、一歩目で足首を見えない鎖に引かれた。
千一歩目になるはずの場所が、もう世界の果てになっていた。