雨を待たせた観測手

空見役カシュアが出発を止めるたび、竜騎士ダグレスは舌打ちした。

「雲を眺めるだけで2%も付くのか」

丘の向こうには、白翼飛竜が巣を構えている。晴天なら空を縦横に飛び、矢も魔法も届かない。それでもダグレスは、自分の竜槍なら落とせると譲らなかった。

カシュアは草の裏を撫で、湿った指を風へ上げた。

「今はまだです」

隊長は彼女を置き去りにして丘を越えた。

飛竜は瞬く間に上空へ舞い、急降下で盾列を散らした。竜槍は翼の残像を突くだけ。隊が退路へ追い詰められたころ、カシュアが遅れて現れた。

彼女は戦わず、谷側の岩へ銀の布を結んだ。

雲の影が布を覆う。ほどなく細い雨が落ち始めた。

白翼飛竜の翼膜には、空気を弾く粉が付いている。だがその粉は、山の冷たい雨に触れると糊のように固まる。翼を広げるほど膜同士が貼りつき、飛竜は高度を失った。

「今なら届きます」

カシュアの言葉に、弓兵たちが矢を放つ。飛竜は舞い上がろうとして片翼を畳めず、丘へ転がり落ちた。ダグレスの竜槍が胸を貫く。

雨はすぐに止んだ。

帰還後、竜騎士は「槍の威圧で地上へ引きずり下ろした」と報告した。カシュアは濡れた銀布を畳み、討伐者の列から外された。

戦果盤は巣の気象記録と飛竜の飛行高度を照合する。怪物が落下を始めたのは、竜槍が届くより前。翼膜の粉が固まった地点は、カシュアが雨雲の進路を示した銀布の真下だった。

「偶然の雨だ」とダグレスが言う。

カシュアは畳んだ布を広げた。表面には、谷風を読むために集めた飛竜の粉が薄く張りついている。

「偶然なら、待たせません」

戦果盤から竜騎士の指揮章が消え、空見役の名の隣へ移った。

次の飛竜依頼を受けた弓兵たちは、武器より先に銀布をカシュアへ渡した。晴れた空を見て出発を急かす者はいない。ダグレスの竜槍は壁に立てかけられたまま、彼女が草の裏を確かめる間ずっと待たされた。

雲を読む者の許可なく飛ぶことを、勇気とはもう誰も呼ばなかった。

【再算定完了】

【カシュア・討伐寄与率:2% → 92%】

【隊内順位:最下位 → 首位】

【役職更新:空見役 → 対飛竜指揮官】