雷猫の毛づくろい

「毛並みを一方向へそろえるだけ? 櫛を技能と呼ぶな」

雷騎士領の選抜官は、カイネを無能として山の製粉村へ送った。

【技能:《毛流れ》――触れた毛のある魔物一体の体毛を、雨が止むまで同じ方向へそろえる】

毛を切ることも固めることもできない。カイネは廃水車小屋へ住み、三匹の雷猫と麦を挽いて暮らした。雷猫は嵐が好きで、屋根に並び、尻尾へ青い火花をためる。晴れた日は袋の上で眠り、粉まみれの肉球をカイネに拭かせた。

長雨のさなか、山腹が崩れた。

土砂が川をせき止め、製粉村の水路は干上がる。水車が止まり、収穫した麦を粉にできない。さらに堰の向こうでは水が膨らみ、決壊すれば下流の町まで呑む。

雷槍伯ゼフラスは兵を出したが、泥へ杭を打つ機械も排水ポンプも動かなかった。魔力炉は山崩れで壊れ、交換の炉石は一週間先だ。

「雷猫を戦場から連れてこい。雷術の触媒にする」

選抜官が命じる。触媒にされた魔物は、毛皮だけを残して消える。

カイネは屋根で震える老雷猫ナバを抱いた。

「一匹を燃やさなくても、雷は空から何度でも来ます」

彼女はナバの背から尾の先まで撫でる。

《毛流れ》

普段は四方へ逆立つ銀毛が、頭から尻尾へ一本の川のようにそろった。カイネは尻尾へ銅線を結び、水車の軸に巻かれた雷石へつなぐ。次の稲妻がナバの背へ落ちた。

雷は毛の流れに沿って走り、尾から銅線へ抜ける。ナバはくしゃみを一つしただけだった。雷石が白く輝き、水車の軸が回り始める。粉挽き臼だけでなく、兵がつないだ排水機も一斉に動いた。

嵐が続く限り、雷は何度も落ちた。三匹は交代で屋根へ上がり、休憩すると温かい乳を飲む。夕方には堰の水位が下がり、兵は安全に土砂を崩した。

ゼフラスは粉まみれのナバを抱き上げた。雷猫は彼の髭を舐める。

選抜官が「銅線があったからだ」と言う。

雷槍伯は自分の槍から飾り鎖を外し、カイネへ渡した。

「雷を受ける者を消耗品と呼ぶ軍より、毛を梳く者のほうが雷を知っていた」

彼は三匹へ頭を下げる。

「今後、我が領で雷猫を徴用する命令は、すべてこの毛づくろい師の許可を得よ」