雷鳴には持ち主がいる

婚約披露の鐘が鳴る直前、祭壇へ青い雷が落ちた。

 聖女候補は間一髪で退き、焦げた床にはオフェリア家の雷紋が残る。

「私の隣に立つ彼女を殺そうとしたのだな」

 婚約者グリフィスは、まだ煙の上がる祭壇で宣言した。

「オフェリア・ブラント。婚約を破棄し、魔力を封じる」

 雷魔法を持つというだけで、オフェリアは幼い頃から火事も落雷も疑われた。だから誰より安全装置を研究し、この祭壇にも三重の避雷弦を張った。グリフィスは費用の無駄だと笑いながら、式典の功績だけは王家の名で発表した。その装置を越えた雷なら、偶然ではなく、祭壇内部から起こされたものだ。

 オフェリアは封印具へ手を出さず、天井の避雷弦を見上げた。魔力を封じられれば、真偽を確かめる術まで奪われる。処罰を急ぐ相手に従うことが潔白の証明になるほど、この国の魔法法は幼くない。雷は紋章を偽れる。だが、術者ごとの魔力振動までは変えられない。

「時計塔主バルサザール。術式楽譜を鳴らしてください」

 バルサザールは銅の音叉を彼女へ渡すだけに留めた。オフェリアが焦げ跡へ触れ、音叉を鳴らす。証拠魔法が雷の残響を七つの音へ分け、広間の上空へ譜面を描いた。

 最後の三音が鳴った途端、グリフィスの右手の指輪が共鳴し、同じ青い火花を散らした。

「王家の雷輪……」

 誰かが呟く。雷を放ったのは指輪であり、指輪を起動した魔力はグリフィス自身だった。

「演出だ。彼女を守る姿を民へ見せる必要があった」

「その悪役に、わたくしを選んだのですね」

 彼は近づき、王妃になれば好きな研究塔を与える、婚約破棄は撤回すると言った。

 オフェリアは焦げた祭壇から婚約指輪を拾い、彼の雷輪の隣へ並べる。

「塔はいただきません。鍵を持つ人があなたなら、檻と同じです」

「では、どうする」

「破棄を受諾します」

 彼女は元婚約者に背を向けた。バルサザールが、時計塔の次代の主として来ないかと手を差し出す。オフェリアは雷より静かな決意で、その手を取った。