霜苺の赤い灯

雪原で赤く見えるものは、たいてい危険だ。

国境警備隊にいた頃、サフィはそう教わった。

けれど今、白い丘に点々と灯る赤は、熟した霜苺だった。雪兎型の自動人形が鼻先で実を見分け、凍らせたまま籠へ集める。籠は橇に載り、麓の菓子工房まで滑っていく。吹雪になれば人形は自分で巣穴へ戻る。

サフィは暖炉の前で毛糸の靴下を編んでいた。

隊の外套は扉の横に吊ってある。裾は裂け、背中には凍傷で倒れた夜の担架跡が黒く残る。あの夜も隊長は「交代要員がいない」と言い、意識が薄れるまで見張り台を降ろしてくれなかった。

窓の外で橇が一台、静かに出発した。

暖炉脇の板に文字が灯る。

《霜苺十五籠、菓子工房が受領。代金入金済み》

薪代、食料、来月の毛糸。十分だ。サフィは編み目を一段進めた。

警備隊では、休むためにも交代理由を三つ書かされた。ここでは雪兎が危険を測り、自分で戻る。休止は怠慢ではなく、仕組みの一部だった。サフィはその考えを、編み目のように一段ずつ覚えている。編み針が止まっても、誰の命令書にも遅れはつかない。

すると、古い隊章が赤く点滅した。

『北見張り台に欠員。吹雪が来る。今夜だけ戻れ』

元隊長の声だった。

『戻りません』

『国境が危うい』

『交代制を整えてください』

『そんな余裕はない』

『私の命を余裕に数えないでください』

隊章が強く震える。

『お前は雪原を知っている。責任感があると思っていた』

サフィは窓の外を見た。自動人形たちは吹雪の兆しを察し、予定より早く収穫を切り上げている。働く者を守る仕組みは、命令より先に休ませる。

『責任があるから、危険な働かせ方には戻りません』

隊章を暖炉へ投げる代わりに、引き出しへしまった。燃やすほどの怒りさえ、もう使いたくなかった。

最後の雪兎が巣穴へ消え、丘の赤い灯が一つずつ消える。

サフィは窓の鎧戸を閉め、編みかけの靴下を籠へ戻した。吹雪の夜に備えてすることは、暖炉へ薪を一本足し、昼のうちに眠っておくことだけだった。