青い防水布の内側
廃業した家具工房の二階に、若者が五人寝泊まりしていた。持ち主は「火だけ出すな」と言い、家賃の代わりに一階の片づけをさせている。
梅雨の夜、屋根から落ちた雨が、笹倉泰知の布団の真ん中へ染みを作った。泰知はちょうど荷物をまとめていた。昼に母から連絡があり、実家へ戻してやる代わりに消費者金融の書類へ名前を貸せと言われた。断るつもりだが、この場所まで知られるのも怖かった。
「屋根、上がるよ」
楠本沙羅が青い防水布を抱えた。雨脚は強く、朝まで待てば天井板が落ちるかもしれない。
二人は古い安全帯を梁へ結び、脚立から低い屋根へ出た。泰知が布を広げ、沙羅が土嚢を四隅へ運ぶ。風が入るたび巨大な布が膨らみ、二人の足をさらおうとした。
「そっち踏んで」
「踏んでる」
「体重足りない」
「そっちが重すぎる」
冗談にするには息が上がっていた。泰知は屋根の端で滑り、沙羅が作業着の背中をつかんだ。礼を言う余裕もなく、二人で最後のロープを煙突へ結んだ。
部屋へ戻ると、全員の布団が一階の作業場へ移されていた。雨漏りは止まっていないが、青い布の下だけは水滴が細くなっている。
泰知は荷物を持って外へ出ようとした。沙羅は止めず、濡れた床へ新聞紙を敷いた。
「布、朝に張り直す。風向き変わるから」
一人では無理だ、と続けなかった。
夜明け前、泰知は公衆電話から母へ断りの連絡を入れた。戻ると、彼の布団は防水布の真下から、乾いた機械室の脇へ移されていた。枕元には、屋根で使った手袋が二組干してある。
朝の台所では、ほかの住人が濡れたパンをフライパンで焼いていた。屋根はまだ応急処置で、次の強風に耐える保証はない。持ち主が急に退去を求める可能性もある。それでも沙羅は、今日の作業欄へ〈布の張り直し 二人〉と書いた。泰知の名ではなく、人数だけだったから、彼は自分で横に小さく丸を付けた。
泰知は荷物から工具袋だけを出した。朝の張り直しに使うレンチを上へ置き、残りの鞄は布団の下へ滑り込ませた。