青印の水甕

ナディムは水甕の封蝋へ、王家の青印を押した。

砂都ルハーンでは、青い封を破れば斬首と決まっている。王の飲み水を運ぶ甕にだけ許された印だ。今夜、二十個すべてに水は一滴も入っていなかった。

「砂では音が違います」

隊商頭ソハイルが甕を揺すった。中で乾いた粒が擦れた。

「敵将アズラクは耳がいい。騙せません」

ナディムは甕の口へ濡れた羊皮を丸めて落とした。その上から細砂を満たす。揺らすと、皮に溜まった水が低く鳴り、満水の甕に似た重い響きになった。

オアシス砦を捨てた兵三百は、南の塩道を退く。水は一日分しかない。アズラクの騎兵が追いつけば、戦う前に渇きで終わる。

囮の隊商は北の王道へ。青印を見れば、敵は王族が水と共に逃げたと読む。砂漠で軍を追う者は、兵より水を追う。

「甕を確かめられたら」

「封を割るまで半刻。割った後は怒りでさらに半刻を失う」

「囮を引く者は」

ナディムは自分の馬へ一つ目の甕を結んだ。

ソハイルが無言で手綱を掴む。

「あなたは王の地図を知っている。南隊に必要だ」

「地図は頭にある」

「なら、その頭を持って南へ行け。俺は甕の音しか知らん。それで足りる仕事だ」

二人は長く見合った。砂漠では別れの言葉を口にすると、水が減ると信じられている。ソハイルは何も言わず、王の小刀をナディムの帯へ差した。

月が上がると、二十頭の駱駝が北へ進んだ。甕の青封が月光を拾う。ナディムは歩幅を遅くした。急げば囮に見える。追いつける距離で逃げることが、最も強い綱になる。

背後に騎兵の砂煙が立った。アズラクは南へ斥候を出さず、全軍で青印を追ってきた。

夜半、ナディムは涸れ井戸のそばで隊商を止めた。甕を守る陣を作り、本物らしく弓を構えた。敵の包囲が閉じる。

その頃、南の稜線に三つの火が灯った。ソハイルたちが塩砦へ着いた合図だった。

ナディムは最初の甕の封を自ら割った。砂を一握り、敵へ投げる。

「王の水だ。飲め」

アズラクが怒号を上げた。

はるか南で、退却隊を収める塩砦の青銅門が開いた。