面接官の影
二次面接が始まると、主任面接官のタイルの下に、同じ名前の音声接続がもう一つ現れた。
主任は「会議室のスピーカーが重複表示されているだけ」と言った。だが二つ目には外部ゲストの印が付いている。
私は転職理由を答えたあと、前職で担当した採用改善案を説明した。
主任は妙に詳しく、現職の給与、応募中の企業、入社可能日まで聞き出そうとする。答えを控えると、「透明性がない候補者は採れない」と評価票へ書いた。
音声接続の向こうで、誰かがキーボードを打つ音がした。
私は質問を変えた。
「この面接情報は、御社だけで管理されますか」
主任は当然だと答えた。
そこで参加者詳細を共有する許可を求めた。二つ目の接続先は、競合する人材会社のドメイン。主任が副業で登録しているスカウト会社だった。
主任は会議室機器の誤認識だと言った。
しかし会議招待の転送履歴には、主任が外部アドレスへ送った文面が残っている。
《今日の候補者は前職の採用データを持っている。聞き出せるだけ聞く》
さらに面接評価シートは、私が入室する十五分前から外部アカウントに共有されていた。閲覧履歴は今も続いている。
二つ目の音声接続が切れた。
採用責任者が過去の面接ログを検索すると、同じ外部アドレスは先月だけで十一回入室していた。候補者が高年収だった回ほど滞在時間が長く、面接翌日には競合側から本人へスカウトが届いている。会議室予約の備考には、主任が《候補者情報確認枠》と記していた。
主任は私が違法に管理画面を見たと言い、即時不採用を主張した。だが採用責任者は、私が見たのは全参加者に表示される接続情報だと確認した。
「むしろ、誰も確認しなかったことが問題です」
私は最後に、主任がさきほど入力した評価票を示した。《情報管理意識が弱い》とある。その一行の更新者も外部アカウントだった。主任は評価まで競合会社に代筆させていた。
採用責任者は主任の主催権限を剥奪し、私へ向き直った。
「面接を続ける必要はありません」
不採用欄が消える。
「情報管理部門から、あなたに採用通知を出します」