黒い太陽を搾り切る
油搾りイリゼは、神殿地下で胡麻と菜種を搾っていた。
灯明が夜を照らせば司祭の祈りが称えられ、油が足りなければ搾り手の怠慢とされた。彼女の腕は太く、衣服にはいつも種の香りが染みていたが、聖職者は「戦えない下働き」と名簿から外した。
技能は大きな実を扱えないと思われていた。
【芯搾り:実一つから指定した中身一種を残さず搾り、用意した器へ移す。実の大きさと殻の硬さは問わない】
日食の昼、魔王が空へ黒い太陽を実らせた。
世界樹の枝に似た影から吊られた球体は、内部に千年分の炎を溜めている。落ちれば王都だけでなく大陸が焼ける。勇者の剣は殻に弾かれ、氷魔法は触れる前に消えた。
大神官は地下避難所を王族と司祭だけで閉めようとした。イリゼはその前に、神殿中央の《永遠灯》を見た。どれほど油を注いでも満ちないとされる、山ほど大きな聖杯型の灯だ。
器はある。
空の黒球は、枝から実った一つの果実だ。
イリゼは搾り機の木柄へ両手を置き、黒い太陽から「燃える力」だけを指定した。
柄を一度押し下げる。
空が軋んだ。
黒い太陽が見えない圧力で潰れ、殻の隙間から金色の炎が一本の流れとなって神殿へ降りる。炎は街を焼かず、永遠灯の器へ吸い込まれた。千年分の火を受けても、灯は初めて半分まで満ちただけだった。
中身を失った黒球は干からびた種皮となり、風に砕ける。昼の太陽が戻り、王都には柔らかな明かりが差した。
永遠灯の底から、大神官が魔王へ送った密書が浮かび上がった。空の災厄を利用し、避難所の席を金で売る契約だった。灯の火は紙だけを焼かず、全文を壁へ映した。
イリゼは搾り機から手を離した。
永遠灯へ蓄えられた火は、王都の炉と街灯へ百年分ずつ分けられた。避難所の扉を閉めようとした司祭たちは、自分たちの密約を照らす明かりから逃げられない。地下で油を搾っていた者たちが地上へ呼ばれ、最初に灯したのは貧民街の診療所だった。
《職業が【油搾り】から【天実圧搾聖】へ書き換わりました》