黒板に残った欠席届

同窓会の教室へ入ると、黒板に卒業時の出席番号が並んでいた。

一番下の「三十二 都和」の横だけ、白い四角で囲まれている。誰かが気を利かせたのだろう。けれど都和には、欠席者を示す印に見えた。

高校三年の一月、祖母の介護と母の入院が重なり、都和は学校へ来られなくなった。卒業に足りない日数を知らされた日、制服のまま職員室で欠席届を書いた。理由欄へ「家庭の事情」と記すと、たった六文字で自分の生活が閉じられた気がした。

最後に教室へ荷物を取りに来た夕方、窓際の席には誰もいなかった。机の中から進路資料を抜き、後ろの扉から出た。卒業式には呼ばれず、写真にもいない。

その後、高卒認定を取り、働きながら専門学校へ通った。それでも同級生に会うと、「途中でいなくなった都和」に戻る気がして、これまでの集まりは断ってきた。

「囲んだの、私」

元担任の原田先生がチョークを持って立っていた。「来るって聞いたから、目立つようにした」

善意だと分かるほど、都和は笑えなかった。

「先生。これ、消してもいいですか」

原田先生は少し驚き、すぐ黒板消しを渡した。都和は自分の名の周囲だけを丁寧に拭いた。白い粉が制服ではなく紺色のワンピースへ落ちる。もう十八歳ではないのに、その粉だけが同じ匂いをした。

名前まで消す必要はなかった。四角だけなくなると、都和は出席番号の列に自然に混じった。

同級生が近況を書き足し始めた。結婚、転職、海外赴任。都和は自分の名の横に「来月、社会福祉士試験」と書いた。合格するかは分からない。けれど欠席の理由ではなく、これから行く場所を書きたかった。

帰り際、原田先生が古い欠席届を返してくれた。保存していたことに驚きながら、都和は半分に折る。

捨てずに手帳へ挟んだ。あの日の六文字も、自分が歩いた道の一部だ。

欠席届の折り目は、もう扉のようには見えなかった。

校門を出たところで、試験会場までの経路を確認する。次に名前を呼ばれる日、都和は自分で選んだ席に座る。