『削除予約の招待者』

懲戒審査の席で、購買担当の安西絢は匿名通報の写真を見せられた。

料亭の個室。取引先の紙袋。卓上には安西の名札。

〈新規業者の選定と引換えに贈答品を受け取った〉

購買部長の百瀬柾人は、懲戒解雇が妥当だと主張した。

「写真まである。言い逃れはできない」

安西は、その日は終日研修だったと言った。百瀬は「途中で抜けたのだろう」と切り捨てる。

法務の城戸理久が、写真の撮影時刻ではなく、料亭名を検索した。

「社内予定表に、同じ店の予約がありました」

削除済みの会食予定が復元された。作成者は百瀬。最初の招待者欄には百瀬と取引先社長だけが入り、翌日、百瀬の名が安西へ書き換えられている。書換えは匿名通報が届く九分前だった。

百瀬は、安西の代理で予約しただけだと言った。

城戸は会議室予約の添付資料を出した。会食の三日前、百瀬は〈選定条件すり合わせ〉という非公開会議を開き、同じ取引先を招いている。添付された見積比較表では、安西が推した最安業者の点数が手書きで下げられ、百瀬の業者が一位になっていた。

「写真の名札は?」

安西が尋ねる。

「印刷履歴が残っています。百瀬部長が会食当日の夕方、あなたの名札を一枚だけ出力しています」

研修会場の入退室ログでは、安西は写真の時刻にも受講中だった。取引先から届いた礼状の宛名は百瀬。メールのCCには、匿名通報で隠された紙袋の品名まで記されていた。

百瀬は、部下を守るため自分が窓口になったと言い直した。

城戸は懲戒案を閉じる。

「安西さんの解雇案は撤回します。購買主任への昇格審査も再開します」

委員長が百瀬へ告げた。

「あなたには、招待者欄ではなく職務欄から外れてもらいます」

城戸は写真の撮影者情報も復元した。取引先社長の秘書が百瀬へ送ったもので、本文には〈昨日はご指定どおり安西様の名札を置きました〉とある。百瀬は写真から送信文を切り落とし、匿名窓口へ上げ直していた。選定委員の一人が比較表の原点数を読み上げると、安西の推した業者が価格、納期、品質のすべてで首位だった。贈答品で買われたのは契約ではなく、処分の筋書きだった。

削除予約から戻った名前は、処分されるべき人物を正しく招待した。