予約名は見学者

青磁医療機構の二次面接で、千家瑞穂は電子カルテ刷新の責任者だった経歴を語った。

三百床の病院で、医師とベンダーの対立を調整し、稼働延期を防いだ。提出された職務経歴書には、基本構想から本番切替まで二年半を統括したとある。医療ITの経験者を急募していた面接官たちは、質問するほど彼女を欲しくなった。採用後の担当病院まで、すでに候補が挙がっていた。

ただ一人、情報部長の針谷だけが、名刺を裏返していた。千家が語った会議の配置も、責任者の口癖も、知っている案件と少しずつ違っていた。

「その病院は、当機構の共同購買先です。私も刷新会議に出ていました」

千家は笑みを崩さない。「大規模案件ですから、全員が顔を合わせるとは限りません」

「確かに。そこで記録を確認しました」

針谷が、病院側の了承を得て共有された移行フォルダを開く。二年半分の議事録、課題表、承認記録が並ぶ。検索欄に千家の氏名を入れると、該当は一件だった。

会議室予約の件名は〈販売代理店同行・製品見学〉。参加者欄の千家の横には〈見学者〉とある。日付はシステム稼働の四か月後だった。

「私は旧姓で参加していました」

「履歴書に旧姓の記載はありませんでしたが、教えてください」

千家は一拍置き、「千野です」と答えた。

針谷が千野で検索する。結果はゼロ。続いてプロジェクト名簿の更新履歴を示した。昨夜、外部ゲストのアカウントが千家の名を責任者欄へ追記している。ゲストの招待先は、千家が応募に使った個人メールだった。

「自分の実績が資料から抜けていたので、元同僚に直してもらいました」

「元同僚は、あなた自身のアカウントです」

決裁メールのCCには、病院長、各診療科、ベンダー、法務まで入っていた。千家も千野も一度も含まれていない。さらに見学日のアンケートには、千家本人の筆跡で〈医療業界は初めてなので勉強になった〉と記されていた。

面接室に置かれた採用予定者用の説明冊子を、針谷は閉じた。

「二次面接通過の判定を取り消します。あなたを最終面接には進めません」